足音が、近付いてくる。
それを聞くだけでやっぱり身体は逃げ出してしまいそうで。
心臓が早鐘を打つ。
新八は俯いたまま膝の上で意味もなく指を弄った。
「たでーまーっと……新ちゃん?」
銀時の帰宅の声とともに襖が勢いよく開けられる。
瞬間、肩が震えた。
襖を開けたまま立ちつくす銀時の指先で、ぶら下がったビニール袋が勢いの名残で振り子のように揺れていた。
カサカサという微かな音だけを耳が拾う。
「なにやってんの、お前……」
襖を閉め、気を取り直した銀時が傍らに来てしゃがみ込む。
新八は両手をぎゅっと握り合わせた。
腰から下を隠すようにかけた布団が心許ない。
逃げ出さない覚悟の為に裸になってみたけれど、銀時を引かせてしまったかもしれない。
そう思ったらまともに顔を見るのが怖かった。
「ごめんなさい……」
視界が微かに滲むのは眼鏡がないせいじゃない。
「何で謝んだよ」
しゃがみ込んだままの銀時がそっと頭を抱き寄せてくれた。
「襖開けたらよ?布団の上で裸の新八がちょこんと正座してました、なんて光景が飛び込んできてみ?銀さん心臓止まっかと思うじゃんよ。つか、寧ろ口から出そうなんですけど。何してくれてんですか、この子はよ」
少しも嫌そうじゃない口調。
気のせいかもしれないけれど、ちょっとだけ嬉しそうにも聞こえる声色。
米神に当たる唇は優しい気がする。
「あの……僕の裸みて……萎えたりとか、しませんか?」
何の凹凸もない身体。
男である新八のごく当たり前の肉体だ。
銀時がそれを承知の上だとちゃんとわかっていても、やっぱりこんな身体に欲情してもらえるのかわからない。
「萎えるか、ばーか」
唇が一瞬触れて身体が離れて。
「俺がどんだけお前の世話になったか教えてやろっか。新八引くぞ?」
掌で髪をくしゃくしゃにされた。
冷静に考えたら多分とんでもなく恥ずかしい告白なのに、銀時が当然のようにさらりと言うから。
それだけで胸がすっと軽くなる。
「けどな、取りあえずはまだ羽織っとけ。気持ちはすげー嬉しいけど銀さんスイッチ入っちゃうから」
枕元に畳んでおいた着物を取って銀時の手が肩から羽織らせてくれた。
袖を通して両手で前をかき合せる。
きちんと着直す必要性は感じなかったからそれだけに留めた。
腕を引かれ銀時の足の間に座らされる。
新八は力を抜いて、意外に逞しい銀時の胸に背中を預けた。
「何買ってきたんですか?」
脇に置かれた白いビニール。
不透明のそれの、中身は見えない。
よく見ると紙袋に入れられて二重包装になっている。
銀時の手がそれを取り、新八の膝の上に乗せる。
がさがさと音を立て銀時の手が袋を開くのを新八はじっと見ていた。
「んー、これな」
取り出されたのは箱とビン。
ビンには透明の液体が入っていた。
「こっちはローション。んで、こっちは……」
「あ……」
言い淀んだ銀時が持ち上げた箱を見てわかってしまった。
その中身は間違いなくピンク色でイチジクの形をしている。
行為の為に使う場所が場所なだけに新八にも目的はわかった。
「い、言わなくていいです」
「そっか?」
「う……はい」
「ま、それだ。あとゴムな」
ローションと、浣腸剤と、避妊具と。
並べられた物を見て、これからする事がいよいよ現実味を帯びてきた気がして新八はそっと息を吐いた。
少し震えている気がする。
「ゴム、一応買ってきたけどホントは使いたくねぇ」
新八の肩に顎を乗せながらの言い方が、まるで子供みたいでつい吹き出してしまったのだが、笑っている場合ではなかった。
「新八の中なんだから生で挿れてーんだよな。新ちゃん、どうよ?」
「どどどど、どうって……どうっていわれても……」
とんでもない内容で話を振られて新八は動揺するしかない。
「そんなの、わかんない……です……でも、その、汚くないですか?」
経験はないけれど、銀時がそうしたいというのなら本当はどちらでもいいのだ。
銀時のしたいようにして欲しかった。
ただ、挿れる場所を考えたら使った方がいいのではないかと新八は思うのだけれど。
「汚くねーよ。そのために綺麗にすんだしよ。銀さんがちゃんと全部綺麗にしてやるよ」
「……だったら、いいです」
「マジで?」
「……はい」
「うわ、すげ嬉しい」
「あっ……ちょ、銀さん何して……やっ」
かき合せただけの緩やかな襟元から銀時の手が進入する。
指先が探るように胸元を這って敏感な場所を当てられた。
「あった。まだやらけーな」
少し硬い銀時の指先が左胸の一点をくるりと丸く辿る。
何度も何度も柔らかく辿られて、新八は息を呑む。
「ん……」
「硬くなった……新八、見てみ」
そう言って空いている銀時の手が新八の左肩から布を落す。
声に釣られてつい視線を向けてしまい新八は一瞬で顔が熱くなった。
視線の先は自分の胸元。
そこは銀時の指先に弄られて硬く立ち上がっていた。
「やだっ」
それが自分の胸だと認識したくなかった。
しかもそれをしたのは銀時で。
恥ずかしくて恥ずかしくて、新八はとっさに身を縮めようとした。
「こらこら、お前素肌に着物羽織ってるだけなんだから暴れんじゃないの。スイッチ入っちゃうっつったろ」
少し暴れた拍子に肌蹴てしまった裾を銀時の手が直してくれた。
それでも身体を拘束する腕は緩まない。
「ぎ、銀さんが変な事するからじゃないですか」
まだ胸を弄っている銀時の腕を緩く掴んで新八は抗議する。
「変な事じゃねーだろ」
親指と中指で抓んだ乳首の先端を人差し指で撫でるように擦られた。
「んっ」
そこから何かが走るような感覚に腕を掴む手に力が入る。
倒れこむ新八の背中を銀時の胸は力強く受け止めてくれた。
「変な事じゃなくて」
寄りかかる新八の、肌蹴た首筋に吐息がかかる。
順番に、肩の丸みに届くまで啄ばむように口付けられた。
「最後通告」
丸みの部分を強く吸い上げられた。
肌蹴た片肌を直してくれて、ぎゅっと抱き締められる。
「こういう事、新八にたくさんしたいわけよ。ここで逃げとかねーと、もう止まってやれねぇぞ?」
それを聞いた瞬間、新八は泣きそうになった。
一見、自分の思うまま勝手気ままに生きているように見える銀時だけれど。
本当は自分の事は二の次で、いつも誰かの為に貧乏くじを引くお人好し。
重いだろうなんて言わないで、黙って荷物を取っていくような不器用なやり方しかできないけれど。
誰よりも、優しくて寂しい人なのだと知っている。
だから傍にいたいと思ったのだから。
身体を捻って首筋に抱きついた。
「銀さんから逃げたりなんて、しないです。銀さんのしたいようにしてください」
銀時の全てを受け入れたかった。
「あんまり聞かれると、ホントは銀さんの方が止めたいんじゃないかと思っちゃいますよ?」
「んなわけねぇし」
速攻で返された言葉にはキスのおまけが付いていた。
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