昼間のような明るさの中、銀時と新八はコンビニの袋をぶら下げて雪道を歩く。
いつものブーツと、滅多に履かないゴム長靴。
二つの靴底が、雪を踏み固めたたくさんの足跡の中に新しい形を残していく。
並んで続いていく大小。
「このクソ寒いのに何でアイス食いてぇとか言い出すかねぇ……ったく」
赤いマフラーに顔を埋め銀時は猫背気味にのそのそ歩く。
ぶら下げた袋には冷たいアイス。
「自分の分も買ったくせに、何言ってんですか」
ちらりと視線を流せば隣を歩く新八の、真っ直ぐに伸びた背中で並ぶ目線が揃う。
文句を言う銀時の袋の中にアイスは3つ。
店に入って品定めをしつつちゃっかり自分の分も買っていた。
頭数として新八の分も入ってはいるが、それが実際新八の腹に収まるのかは定かではない。
「だっておめぇ、選んでたら目移りすんじゃん?そしたら欲しくなんのは摂理じゃね?」
「だったら文句もなし、でしょ」
「言うのはただだろ。溜めるのはよくねぇんだよ。ガスは小まめに抜いとくもんだ」
「銀さんは少しは溜めた方がいいんじゃないかと思いますけど?」
特にお金とか、やる気とか、気力とか。
そう言って笑いながら新八は銀時より少し前に出る。
珍しく年相応にはしゃぐ足取り。
「滑んなよ」
「はーい」
踏み固められていない道路脇の新雪を、楽しそうに踏んでゆく新八の後ろを銀時はのんびりと追いかけた。
新八の、自分よりも小さな足跡だけが続いていく雪の上。
その脇をゆっくりと歩く。
迷いながら、悩みながら。
それでもきっと一歩一歩確実に繰り出される真っ直ぐなそれが、自分の隣にその軌跡を残してくれる事の意味。
振り返れば続いてきた足跡が点々と残っている。
そして、この先には続いていく足跡が刻まれていくのだ。
それがどんなに銀時を救い上げるのか、きっと新八は知らないだろう。
「なぁ、新八」
前を行く伸びた背中に声をかければ。
「はい?」
立ち止まって律儀に振り返る。
「さみぃ」
「寒いって……」
呆れた、という表情を隠さずに。
「そんなぺらぺらのスカジャン着てるからでしょーが」
近付いてきた新八は防寒着としてはほぼ実用性のない銀時の上着を引っ張った。
そういう新八自身もクリーム色のマフラーを首にぐるりと巻いただけなのだが、その辺りは若さでカバーなのかもしれなかった。
「せめて下に長袖着ればいいのに」
銀時は基本的に半袖シャツに着流し、というスタイルを崩さない。
「だって銀さんジャンプヒーローだもん。これ制服だもん」
「だったら寒さも気合で我慢してくださいよ」
「それは無理」
きっぱり言い切る銀時に、返ってきたのは小さなため息だった。
新八の手がガサリと袋を探る。
取り出されたのは白い塊。
掌に丁度収まる大きさで、中心がきゅっと絞られている。
豚まんだ。
「半分あげます」
袋を手首にかけて新八が饅頭を半分に割る。
白い湯気がほわっと立ちのぼった。
「はい。まだ温かいですよ」
半分ずつの豚まんを両手で持って片方を自分に差し出す新八を、銀時はじっと見る。
割り口からはまだ温かそうな湯気が出ているけれど。
「いらないですか?」
新八の口元から流れる吐息の白さの方が何倍も温かそうで。
腕を、伸ばす。
「ちょっ……何してんですかっ」
腰を抱き込んで密着すると触れた部分が温かい。
豚まんの欠片を持ったまま両手を上げた状態で慌てる新八を余所に、銀時は唇を寄せていく。
「離して下さいってば」
「寒いんだって」
「だから豚まんあげますって言ってるじゃないですか」
「新八の中のがあったかそうじゃん」
「なっ、中って……」
両手は塞がり、腰も拘束、更には耳からとんでもない言葉を入れられて。
新八は真っ赤になって絶句するしかなかった。
「豚まんは後で貰うけど。先に新八で温まらせてくんね?」
強くなる腕の拘束に、新八の腰の辺りでアイスの袋がカサリと鳴った。
「……ここ、往来なんですけど」
雪と、時間の所為で人影は無いに等しいけれど。
「だから、さっさとしねぇと、な?」
新八のなけなしの抵抗を銀時はにやりとやり過ごす。
「………………ろくでなし」
ちょっとだけ悔しそうな新八の声。
「だな」
肯定したら軽くにらみつけられた。
でも、言葉の意味とは裏腹に、漏れる吐息は白く温かい。
だから。
銀時は少し拗ねた新八の唇を、ゆっくりと自分の唇で塞いだのだった。





「冷めちゃったじゃないですか」
半分にした豚まんは、口付けの間にすっかり熱を放出しきってしまっていた。
新八は、歩きながら半分にした断面をくっつけている。
「いーじゃねぇの。んなもん、チンして食ったらいーんだよ。それよりも」
「あ」
銀時は新八の手から割れた塊を取り上げると自分のアイスの袋に放り込む。
既に冷めているから溶けてしまう心配は無い。
そうしてから空いた新八の手をとった。
「手、冷てぇな」
豚まんと共に冷気の中に晒されていた新八の手は同様にすっかり冷えていた。
自分の所為で冷たくなった指先を温めるように、片方だけだけれど包んでやる。
「新八のおかげで銀さんぽかぽかだから、お礼に温めてやるよ」
そのまま引いて歩き出せば後からちゃんと付いてくる。
「銀さん」
「なんですかー?」
「温かいけど、恥ずかしいです」
新八は隣に並ばない。
けれど、素直に手を繋がれたままで訴える。
「恥ずかしいけど温かいのとどっちがいい?」
手を引き寄せて並ばせる。
そうして尋ねれば、戸惑うように眉が寄せられた。
「どっちって……」
「恥ずかしいのがいいか、温かいのがいいか」
二択を迫る。
暫く考えていた新八だったがやがてボソリと。
「それってどっちも手、離してもらえないんじゃ……」
「新ちゃん、鋭いじゃないの」
離す気など、あるわけが無かった。
「こんな寒い日に離したら死んじまうだろが」
「雪山で遭難してるわけじゃないんだから……」
「おっさんは寒さに弱いのよ」
「だから厚着してくださいって……」
「この冬を、新八の愛で乗り切りたい……みたいな?」
「みたいな、じゃないでしょーが。もー」
ぶつぶつと文句を言うわりに、それは口先だけで。
掌は銀時の手に素直に繋がれたままだ。
月明かりに照らされて青白い道に影が長く伸びる。
大小二つの人影と両側で揺れる小さな袋。
並んで歩く二人の後をそれはどこまでも付いていく。
隣り合せの足跡を撫でるように滑りながら。
「でも、神楽ちゃん、良くなってくれて安心しました」
感染はあっという間に広がって、一時は江戸が全滅か、というニュースも冗談ではなく流れたほどなのだ。
「あいつも炬燵で寝てばっかいっからああいうことになんだよ」
「それは銀さんが言う事じゃないと思いますけど?」
「だから、鍛え方が違うんだって。俺くらいになるとだな、炬燵で腹出して寝たくらいじゃなんともねんだよ」
「どーだか。ホントにウィルスの方が逃げてんじゃないですか?」
「まぁ俺クラスになるとそうかもしんねぇな」
「……絶対別の理由だ」
得意げな銀時の言葉に返ってきたのはボソリとした呟きで。
残念(なのだろうか)ながら耳に意味は届かなかった。
「なん?」
「なんでもないです」
「そ?」
「はい」
くすりと笑った新八がぎゅっと手を握り返してきた。
そっと引く手に力を込められて。
「ねえ銀さん」
「んー?」
呼ぶ声に、歩きながら気持ち顔を寄せる。
その銀時の耳元に同じように顔を寄せて。
「帰ったら、手伝ってほしい事があるんですけど」
まるで内緒話をするように、新八の声が耳に届いた。



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