「新八っ、大発見アルっ」
玄関先からどたどたと、凄い勢いで神楽が走り込む。
きっと下では天井から埃が落ちているかもしれない。
「どうしたの?」
朝食用の沢庵を切っていた手を止めて新八は包丁を置く。
振り返れば、すっかり回復した神楽が赤い半纏に真っ赤な頬で両手に盆を持っていた。
「これっ」
神楽が差し出した丸い盆には四つの白い塊が乗っていた。
特大、大、中、小、と綺麗に大きさが分かれている。
「これ、何アルカ?めっさ可愛いネッ」
新八が万事屋に泊まりの時、朝刊を持ってくるのは神楽の仕事だ。
今朝も朝刊を入れるために玄関を出た。
その時に新聞受けの下でこの盆を見つけたのだ。
木で出来た茶色の丸盆の上に仲良く四つ並んでいたのは雪で出来たウサギだった。
「雪ウサギっていうんだよ」
「雪ウサギ……」
「雪だるまのウサギ版、みたいな感じかな」
「初めて見たアル」
神楽は両手に持った盆をあちこち動かしじっくりとウサギに見入っていた。
「ホントは南天の赤い実とユズリハっていう葉っぱを使うんだけどなかったから。ちょっと貧乏くさいんだけど」
申し訳なさそうな新八の声に、ウサギをじっくり見詰める。
なるほど。
ウサギの赤い目は茹でる前の小豆が嵌っている。
耳に至っては出汁用の昆布を耳の形に切っていた。
所帯じみた雪ウサギ。
それでも。
それはこの万事屋に不思議なほどにしっくりとくる。
「これで良いアル、これが良いアルヨ。これ、玄関に飾るネ」
とても嬉しそうに神楽はまた玄関に走った。
階段下から上がってくる客に良く見えるように角度に気を使って盆を置くと中に戻る。
「今日はウサギがお出迎えネ」
「そうだね」
楽しげな神楽に一度微笑んで新八はまな板に向き直る。
その後から白い割烹着の端をちょんと引っ張って。
「新八が作ってくれたアルカ?」
傍らから覗き込むように見上げてくる神楽にやっぱりちょっと微笑んで。
「銀さんが頑張ってくれたよ」
昨夜の新八のささやかな我侭を。
銀時はただ黙って聞いてくれた。
大きいものを二つ作ってくれた銀時の掌を思い出す。
作り終わった後、袖の脇から入り込んだ掌を肌で温めさせられたのを思い出して少し顔が熱くなってしまったけれど。
「神楽ちゃん、お礼がてら起こしてきてよ」
「了解アル」
しっかりと敬礼した神楽は綺麗に回れ右をする。
そうして。
「銀ちゃ〜んっ」
襖の開く音がして。
ありがとうの声の後、多分。
神楽が、飛んだ。
聞こえてくるのは断末魔のような銀時の声。
それを聞いて新八は味噌汁を温めていた火を止めた。
割烹着を脱いで和室に向かう。
きっと暫く銀時は使い物にならなくて、朝食どころではないだろう。
こんな寒い雪の朝、たまにはのんびりするのも良いかもしれない。
一つの布団に団子になって、朝から災難に見舞われた銀時を慰めながら、暫しの惰眠をむさぼるのもいいんじゃないかと新八は思う。
薄い煎餅布団に一塊になって、互いの体温が絡まって。
それはとても温かそうな光景で。
しがみ付くみたいになってしまうけれど。
今日はちょっと可哀想な銀時を抱き締めて眠ってみようか、なんて思って照れる。
とにかく。
神楽の下で潰れているだろう銀時を救出してやらなければと思いながら新八は和室へと足を踏み入れた。





仕事は……まあいつも無いようなものだけれど。
珍しく新八も混ざって惰眠をむさぼる万事屋の朝。
寝にくいだろうに銀時は、両脇に二人を抱えてしがみ付くようにされながら至って満足顔だった。

10分後、「第一回チキチキかぶき町雪祭り開催決定」という回覧板が届けられることを、まだ誰も知らない。




20070314UP

20090714加筆修正


冬銀祭に参加させていただきました作品です。
閉幕されましたのでサイトに展示させていただきました。
ほんの少し手を加えましたが、殆ど投稿時のままです。
お祭は終わってしまいましたが、冬の坂田、冬の万事屋はいいなぁという気持ちは変わらないですね。
素敵なお祭に参加する事が出来て倖せでしたv


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