「新八ぃ」
銀さんが僕を呼ぶ。
でも僕は現在部屋の掃除中。
箒を持って床を掃いてる最中だ。
「なんですか?」
手を止めるのは時間の無駄だから、床のごみを集めながら声だけ返した。
今日は用事があって午後からの出勤だったんだけど、来たら既に机の上にはんまい棒の残骸が山盛りで、僕の仕事はそれを片付けることから始まった。
机の直ぐ横にゴミ箱置いてあげてるのに何度言っても捨ててくれないんだから腹が立つ。
ほんとにも〜、少しでいいから片付けるって事覚えてくれないかなぁ。
「新八、大変だよ、切れちゃったよ」
「そうなんですか。そりゃ大変ですね」
午前中は何をやってたか知らないけれど、僕がんまい棒の残骸処理をしてる最中に帰ってきた銀さんはそれからずっと椅子に座ってくるくる回ってる。
僕が足元を掃こうとすると足だけ上げてくるって回転。
それってなんなの?
本当にこの人ってば駄目人間の見本みたい。
「新ちゃん、銀さん切れちゃったんだってば」
「はいはい、わかりました。切れちゃったんでしょ……って、えっ、切れたっ?」
話半分に聞いてた僕は二度目に漸く内容を理解してビックリ。
思わず足元を掃いてた箒の先を踏んでつんのめってしまった。
「ど、どこが切れたんですか?」
辛うじて転ぶことなく踏みとどまって、箒を置いて銀さんに近づく。
なんとなく元気がなさそうに見えなくも無いけど……、この人、基本いつもどんよりしてるからわかりにくいんだよね。
片手で頬杖付いてる銀さんは一見したところではとりあえず怪我らしきものはない感じ。
どこを怪我したんだろう。
「切れたとこみせてくださいよ」
傍らに立つと銀さんは上目で僕をチラッと見て何かをボソッと呟いた。
「お前、なんでそんなに可愛いわけ?」
「はぁ……?」
「どういう環境でこういうのが育つんだろうねぇ……反面教師ってやつ?」
人の顔みながら何ぶつぶつ言ってんだろ。
なんか「こういうの」呼ばわりされてるんだけど。
よくわかんないけどこの感じなら怪我してるにしてもたいしたものじゃなさそうだよね。
「大丈夫なんですか?大した事ないなら僕掃除の続きしますからね」
やれやれ、って感じでため息をいっこついて僕が掃除を再開しようと踵を返したら。
「ストップ新八君」
銀さんは椅子ごとくるりとこっちを向いて自分の腿を掌でぽんぽん叩いた。
「ちょっと新八君。ここに座ってくれませんかね」
なんか妙にまじめな顔。
「何でですか。やですよ」
いきなり膝に座れって言われたって困る。
離れようとしたら手を掴まれた。
「上司命令だよ、上司命令……な?」
「そういうことは給料きちんと払ってからほざいてください」
「いや、でも新八が切れちゃって銀さん死にそうなんだよ」
僕が切れたって何?
「なんです、それ。僕怪我なんてしてないです」
「そーじゃねー。俺が切れたの」
「???」
「とにかくまあ座って頂戴よ」
「ちょっ」
掴まれた手を引っ張られ、腰に腕を回されて、あっという間に僕は銀さんの膝の上に横座りさせられてしまった。
「……あんたホント強引ですね」
「だって新八逃げねーじゃん」
「それはっ、銀さんが手を離してくれないから……」
直ぐ傍でにやりとされて僕は言葉に詰まる。
掴まれてはいたけれど銀さんの手の力は緩やかで、本当はいつだって抜け出すことはできた。悔しいけれど反論はできない。
銀さんはまだ僕の顔を見ながらニヤニヤニヤ。
だから両耳を軽く引っ張ってやった。八つ当たり、だけどね。
「掃除の続き、したいんですけど」
「イデデ……」
「これは人の邪魔してまでしなきゃなんない事なんですか?」
耳から離した後、手のやり場に困って袴の生地を意味もなく弄る。
片腕だけ回されてた銀さんの腕がもう一本増やされて隙間がないくらい抱き寄せられた。
身体を捻る感じだから少し苦しいんだけど。
「そうだよ」
首が交差して、まるで肉食獣が獲物を捕獲するみたいに銀さんの顎が僕の首を挟む。牙のある口で咥えられてるみたいでぞくりとした。
「新八を、一日一回補充しないと銀さんは駄目になんだよ」
声は耳元から聞こえてくるのに、触れ合った喉の骨から響く音に背筋が痺れた。
銀さんの、声と、言葉と、体温と。
全部が一つになって僕の全身を駆け巡る。
「そ……ゆ……こと、いわないでください……」
銀さんは、自覚があるのかないのかわからないけど時々恥ずかしい事をさらっと言うから性質が悪い。
「……離してくださいよぉ」
「新八補充中ニツキ解除不能デス」
腕の力が強くなった。
うう、いぢわるだ。
銀さんは本当に僕が嫌がることはしないけど、時々凄く意地悪で僕が困ってるのを楽しんでる気がする。
でもそれがちっとも嫌じゃないなんて、僕はきっとおかしい。
今だって、恥ずかしいんだけど銀さんが僕のこと必要としてくれてるっていうのが凄く嬉しい、なんて本当は思ってるんだけど。
まだこういう触れ合いには慣れなくて、「慣れない」事にドキドキもするけれど「触れ合うこと」は凄く落ち着く。
銀さんの体温は少し低め。
一見するとそうは見えないその身体は触れてみると結構逞しくて、僕なんかとはぜんぜん違う。
大人の男の人なんだなぁって思う。
普段あんなに駄目駄目なのに、銀さんはちゃんと大人の男の人で、僕よりずっとたくさんの年月を生きてきてる。
その間にどんな人を好きになったんだろう。
考えても仕方がないってわかってるのにそれはいつも心のどこかに潜んでる。
どうして僕を好きになってくれたんだろう。
僕のどこを好きになってくれたんだろう。
いつまで、僕を好きでいてくれるだろう。
……ああ、僕本当に銀さんのこと好きなんだ。
どうしよう。
大好きが溢れて止まらない。
頭の中が銀さんで一杯だ。
補充するってこういうことなのかな。
銀さんもこんな風に僕で一杯になってくれてるのかなぁ。
だったら凄く嬉しいのに。
膝の上に置いていた手を思い切って持ち上げて銀さんの首に回してぎゅっと力を込める。
「珍しく積極的じゃねーの」
「だって……好きなんですもん」
ああ、どうしてこういう可愛くない言い方しかできないんだろう……。
可愛くなりたいわけじゃない。
でも銀さんに可愛くないやつだって呆れられたくはない。
……これって永遠のジレンマ?
「昼間からオフィスラブですかこのやろうアルネ」
背中から急に声をかけられて僕は漫画みたいに跳ねてしまった。
「か、神楽ちゃんっ?」
あんまり驚いた僕は身体に回された銀さんの腕がなかったら床とご対面してたと思う。
とにかく膝から降りなきゃ、と思ったら身体がちっとも動かない。
僕の身体には銀さんの腕がしっかり回ったままで、離してくれる気配が感じられない。
「銀さんっ、は、離してくださいってば」
「やーよ」
「ふざけてる場合じゃないでしょーがっ」
神楽ちゃんが見てる、神楽ちゃんが見てるってばっ。
銀さんが隠そうとしないから、僕たちが普通の関係じゃないことはとっくにばれてるし、神楽ちゃんもそれを受け入れてくれてる。
でも、だからといってあからさまに目の前でこんなところを見せたくはない。
だって、恥ずかしいよ(/////)
「マミー、恥ずかしがることナイネ」
!……マミーって何?!
「何だ神楽、今日は早いじゃねーか」
一人でじたばたしてる僕を尻目に銀さんは至ってのんびり。
本当にもう自由な人だなぁ。
神楽ちゃんも銀さんも、本当に、マイペース。
焦ってる僕が馬鹿みたいにみえる。
「約束があるから帰って来たヨ」
神楽ちゃんの手を借りるような依頼がない時は基本的にご飯の時間まで彼女は家に帰ってこない。
だからこんな中途半端な時間に帰ってくることは珍しい。
「誰か遊びに来るの?」
よく遊んでるそよ姫様とかがきたりするんだろうか。
「何言ってるネ。新八と約束したアルヨ。忘れたアルか」
「えぇ?」
僕と約束?なんだっけ。記憶にはないんだけど、なにか約束してたっけ?
思い出せないんだけどどうしよう。
「新八、神楽と約束って何?銀さんには内緒なの?」
銀さんが肩に顎を乗せて耳元でしゃべる。
思わず首をすくめてしまった。
「っ……内緒って言うか……覚えてないって言うか……あの、神楽ちゃんごめん。約束ってなんだったっけ。僕忘れちゃったみたいで」
一生懸命考えてみても約束がなんなのか思い出せなくて僕は困惑する。
僕ってこんなに忘れっぽかったっけ。
「新八忘れちゃったアルか?」
「うん……ごめんね」
神楽ちゃんは少しうつむき加減で隣の定春の首をぎゅっと抱き締めた。
ああどうしよう、凄い罪悪感。
「今日は新八の膝枕で昼寝する約束したのに……」
神楽ちゃんのその言葉をきいても思い当たる記憶が何もない。
何でこんなに綺麗に忘れちゃってるんだろう。
もしかして病気?
「昨日の夢で新八と約束したアル。だから楽しみに帰ってきたのに忘れたなんて酷いアル」
……あれ、僕の耳がおかしくないのなら今「夢」って聞こえた気がするんだけど。
「おい、神楽。お前いま夢つったよな」
「それがどしたネ」
「夢の新八君はこの新八君じゃぁねーよなぁ」
この、の所で銀さんの顔が肩口からぐいっと突き出てほっぺがくっついた。
「でも新八がそう言ったアルっ」
「ったく理不尽きわまりねーな、おめーはよぉ」
理不尽さにかけては銀さんも負けてないんですけど……と思ったけれど、口に出すのはやめておいた。
それよりも。
「神楽ちゃん、約束って夢の話なの?」
「そうヨ。でも新八が膝枕で昼寝させてくれるって言ったアルヨ。だから早く帰ってきたのに……」
神楽ちゃんの告白で全ての謎が解けて漸くすっきりした。
夢オチなんてちょっと笑い話だけど、忘れてしまったわけじゃなくて本当に良かった。
膝枕で昼寝がしたい、なんてなんか可愛いよね。
神楽ちゃんは時々酷く甘えん坊になる。
家族とはなれてたった一人で違う星にいるんだもん、当たり前だよね。
宇宙最強の戦闘民族とはいってもまだ13歳の女の子なんだから。
僕は。
銀さんと神楽ちゃんと定春と、この万事屋がもう一つの家族みたいだって凄く感じてる。
姉上も大切なたった一人の僕の家族だけど、そういう血の繋がりとは違う何か特別なもの。
だから神楽ちゃんは僕にとって大切な家族。
できることはなんだってしてあげたいって思う。
「じゃあ今からお昼寝しよっか」
「マジアルか?」
「約束は守らないとね」
神楽ちゃんが嬉しそうだからまあいいかって思っちゃうよね。
僕なんかの膝枕で本当にいいのかどうかは疑問だけど。
「しーんちゃん」
耳元で声がしてふっと温い風が当たる。
「ひゃ」
反射的に耳を押さえたら銀さんと目が合った。
「銀さん一人で置いてけぼりなんだけど」
忘れてた……僕銀さんの膝の上にいたんだった。
「銀ちゃんはもういいアルヨ。さっさと新八離して私と交代するアル」
神楽ちゃんは直ぐ傍まできて銀さんの袖口をつんつん引っ張ってる。
「新八の膝で昼寝だぁ?若ぇうちからンな贅沢してどうするよ。昼寝ならあっちで一緒にすりゃいーだろ」
「ヤーヨ。今日は新八の膝で寝るアル。それに銀ちゃんは昼寝できないヨ。お仕事アルネ」
「あ?」
「上がってくる時お登勢さんに呼んで来い言われたアル。ビールケースが待ってるヨ」
スナックを経営してるお登勢さんのお店は月に何度かお酒の仕入れがあって、その度銀さんは運搬作業に借り出される。
お登勢さんはここの大家さんだけれど、仕事をした分はきちんと賃金として支払ってくれるから、たまにあるお手伝いは貴重な収入源だったりする。
「おいおいおい、勘弁してくれよ。今日は朝っぱらから粗大ゴミ運べとか言ってガラクタ山ほど運ばされたとこなんだぜ?あのババァ、どんだけ人使いが荒いんだっつの」
ぐったり感たっぷりに銀さんがぼやく。
そっか、午前中に居なかったのはお登勢さんの所のお手伝いに行ってたからで、元気がない感じがしたのは本当に疲れてたからなんだ。
駄目人間とか思って悪かったかな。
「いいじゃないですか、お金もらえるんだし。三人でやれば早く終わりますよ」
皆そろってるんだし、銀さんにだけやらせるのも申し訳ないから僕はそう提案してみた。
「その後ちょっと休憩で皆で昼寝すればいいでしょ、ね?」
なんだか自堕落な気もするけど今に始まったことじゃないし、まあいいよね。
壁に立てかけた箒がちらりと視界に入る。
掃除もやりかけなんだけど、いーや。
今日きれいにしても明日はまた元通りだしね。
「じゃあ」
そう言って神楽ちゃんはいきなり僕の膝の上にぴょんと飛び乗った。
神楽ちゃんは軽いけど、軽くたって加速が付けば重さが増す。
飛び乗った勢いで銀さんが蛙の潰れたような声を出した。
「おまっ……もうちょっとそっと乗れよっ。なんか出んじゃねーかっ」
「へへへ」
椅子に座った銀さんの膝の上に僕、その僕の膝に神楽ちゃん。
なんか凄いことになってるんだけど、僕たちナントカ雑技団?
銀さん大丈夫かな。
神楽ちゃんは楽しそうに足をぷらぷらさせてる。
「膝枕は今度にするアル。かわりに新八が抱き枕で銀ちゃんが腕枕するネ」
抱き枕って……。
「それって僕が神楽ちゃんに抱っこしてもらうの?」
「勿論アル」
僕の立場って一体なんなんだろう(汗)。
この中で一番弱いってことはわかってるんだけど、なんか複雑。
「膝枕に抱き枕って、神楽ちゃんはおセンチモードですか?」
「いっつも新八独り占めしてる銀ちゃんには一人寝の寂しさはワカラナイヨ」
「一丁前なこと言うじゃねーの、お嬢さん」
「いーのヨ。れでぃにはそういう日もアルノヨ」
「レディー、ねぇ」
銀さんがわざとらしく感心してると玄関の戸ががらりと勢いよく開いて。
「邪魔するよ」
お酒とタバコで焼けた独特の声がした。
お登勢さんだ。
はっとして僕は今のこの自分たちの状態を客観的に思い描いた。
……これって駄目じゃない?
でも上下からプレスされてる(しかも銀さんの腕付き)僕に成す術はなくて。
ずんずんと玄関から向かってくるお登勢さんをおとなしくお迎えするしかなかった。
「ちょいと銀時、一体いつまで待たせ………って、あんたたち一体なにやってんだい」
僕たちを見たお登勢さんはそういって壁にもたれると指に挟んだ煙草を口に銜える。
吸った息が紫煙になって吐き出されるまでの時間はきっと僅かなものだったけれど、僕はお登勢さんの顔を直視できなかった。
「いつまでも親子で団子になってないでさっさと仕事片付けな、この天パが」
「うっせーな。朝っぱらから訳のわかんねーガラクタ運ばされてくたくたなんだよ。一服くらいさせろっつの」
「何が一服だい。デレデレしてんじゃないよ、ったく締りのない顔して……」
「締りがねーのはお互い様だろが」
「お前さんと一緒にすんじゃないよ。あたしゃ気持ちがたるんでるんじゃないんだよ。歳の所為で皮膚がたるんで……って、何言わせんだいっこの糖尿パーマネントがァァァァァァァァっ」
「てめっ、人のコンプレックスセットメニューみたいにくっつけんじゃねェェェェェっ」
な、なんかもう圧倒されるばかりで口を挟む隙もないよ(汗)。
「とにかく」
お登勢さんは気持ちを切り替えるみたいにしてまたゆっくりと煙草をふかした。
「お前さんもいい嫁貰って可愛い娘もできたんだ。所帯持ったからにはちったぁ真面目にやったらどうだい」
……え?
お登勢さんの言った言葉に僕の頭は真っ白に飛んでしまった。
「言われなくてもわかってるっつーの」
「……実際問題家賃が払えてねぇから言ってんだろぉぉぉが、この腐れパーマァァァァァ」
ぺちぺちぺち
「新八、どしたネ」
神楽ちゃんの柔らかな手が頬を叩く感触で僕は意識を取り戻す。
神楽ちゃん、銀さん、お登勢さん。
三対の瞳が僕を見ていた。
その中の一対、お登勢さんの目を見て。
聞くのが怖い事を聞いてみた。
「あの。銀さん、いつ結婚したんでしょうか……」
「おやおやつれない恋女房だねぇ」
鼻から煙を出しながらお登勢さんが言う。
それに賛同するみたいに傍で頷いてる銀色の頭を腹いせに一度はたいた。
「新八、気付いてなかったのかい?あんたここいらじゃ評判だよ。ろくでなしの万事屋んとこにできた嫁が来たってね。自覚無いのかい?」
じ、じじ自覚って……。
そりゃ、そりゃ銀さんのことはそういう意味で好きだしっ、神楽ちゃんも定春も、万事屋のこと家族みたいに思ってるけど。
でもでも、それはあくまでも万事屋の中の秘密っていうか……。
「そ、それって、皆知ってるってことなんですかっ?」
かぶき町の人が皆僕たちのこと親子とか、そのふ、夫婦とか思ってるって事??
「ふっ、ほんとに可愛いねぇ」
「ったりめーだっつの。ってか可愛いって言うだけでも新八が減るからやめてくんない?」
「銀さんっ」
もう何がどうしてどうなってるのか考える事を頭が放棄してる。
「新八耳が真っ赤ヨ」
耳たぶに触れた神楽ちゃんの指先の冷たさに僕は肩を竦めた。
「安心おしよ、新八。何もからかおうってわけじゃないさ。ただね」
お登勢さんが室内に足を踏み入れる。
テーブルの上、来客用の灰皿で煙草をぎゅっともみ消し肺に残った煙を吐き出すと僕たちをじっとみつめた。
「皆単純に嬉しいのさ」
そういったお登勢さんはとても優しい表情をしてた。
“嬉しい”っていう言葉の中にどれだけの思いが込められてるのかが伝わってくるくらいに。
お登勢さんをはじめとするかぶき町の人たちは、たった一人で万事屋を営んでいた銀さんを知っていて、その銀さんの傍に神楽ちゃんや僕がいる事を嬉しいと思ってくれてる。
それってつまり……。
むちゃくちゃな人だけどやっぱり銀さんて皆に愛されてるんだなぁ。
「ま、どうしようもない男だけど、それだけじゃないってことはあんたらが一番知ってるだろうからね。末永くよろしく頼まれとくれよ」
「うるせーよババァ。母親気取りですかコノヤロー。呼びに来ただけで居座りすぎだっつの」
「うるせーのはお前だろがァァ。さっさと仕事してりゃわざわざ呼びにきたりしてねぇんだよォォォォ」
筋張った拳骨が銀さんの頭に落とされた。
銀さんのお登勢さんに対する憎まれ口は遠慮がないけど結構な割合で照れ隠しも含んでると思う。そういうのを踏まえて見てるとこういうときの銀さんは凄く可愛い。
「銀ちゃんも妖怪おばばには勝てないネ」
「誰が妖怪かァァァァァ」
神楽ちゃんの失礼な言葉にお登勢さんの怒声が響いたけど落ちる拳骨はなかった。
「とにかく。一服すんのはその辺にして、さっさと片付けとくれよ。店開けるまでに冷やす時間もいるんだからね。間に合わなかったら家賃一割り増しだよ」
鬼のような脅しを残してお登勢さんは帰っていった。
最後の一言にちょっとだけ寒くなったけど、でも僕の心はほっこりと温かかった。
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