「あんたは……なんで外でこういう事、すんですか」
胸に凭れて呼吸を整えながら、新八は銀時の行動を非難する。
いつ誰が見ているかもしれないこんな場所でのあんな行動。
信じられなくて顔が熱くなる。
「だから、ちゃんと安全確認したろーが」
「でも……」
「気にするほど周りの人間は見ちゃいねぇって、心配すんな」
銀時の指が髪を引く。
そうして宥められてしまうと流されてしまいたくなる自分がいる。
受け入れてしまった自分を自覚してもいる。
考える事を放棄して、新八は身体から力を抜いた。
癖のない新八の黒髪を銀時は気に入っているようで、よく指を絡めてくる。
新八はふわふわと遊ぶ銀時の銀色が大好きで。
お互いにないものねだりなのかもしれないなと思いながら、髪から伝わる感触に落ち着いていく呼吸を感じていた。
旋毛への口づけの後、顎下に頭を抱きこまれると開いた襟元から覗く首が間近に迫る。
肩口に頭を預け、新八はくっきりと浮き出た喉仏をぼんやりと視界に収めた。
「銀さん」
「んー?」
銀時の声帯が震えると合わせるように喉のラインが綺麗に動く。
「今日は、ありがとうございます」
「母の日」だという事が面映くはあるけれど。
「んや、言いだしっぺは神楽だしな。母の日は何する日だっていきなり聞かれてよ。ま、俺はちょいと手ェ貸しただけだ」
「それでも、です」
朝起きて弁当を作って。
何よりも、自分の事を考えながら何かをしようと思ってくれた事が嬉しいのだから。

誰かを想う時、胸の中にはほんのりとした明かりが灯る。
二人の胸の中に、自分もその灯かりを灯せる存在であれたなら、それはどんなに幸せなことだろう。
そう思うだけで新八の心の中は温かくなった。

草の上。
編みかけて置きっぱなしの蓮華草が指先に当たった。
身体を離して首を捻ると背中の方に銀時が作ってくれた花輪も落ちていた。
それを拾って腕に通すと中断した作業を再開する。
残り十数センチを編んでしまうと輪にして完成。
「銀さんの分です」
「おっさんにお花は有りなの?」
「勿論です。はい」
困惑気味の銀時に笑顔で返し、腕を伸ばして頭上に飾った。
「よく似合いますよ」
褒め言葉に銀時は嫌そうな顔を隠さない。
「もっそい複雑です」
「あはは」
吹く風が、ここにある全ての柔らかいもの達を揺らして渡る。
誘われて、銀時の髪が蓮華草を優しく撫でた。
銀髪と赤紫の柔らかいコントラストはとても綺麗で新八は見惚れる。
戦いの場に身を置かない時の銀時は、普段はとても穏やかな空気を身に纏う(物は言い様だ)。
そうなるまでにはきっといろんな事があったのだと思うけれど。
こんな風に平穏な時間がこの人をずっと取り巻けばいいのにと、新八は祈りにも似た気持ちを感じずにはいられなかった。





遠くから声がして。
向こうの方から神楽を乗せた定春が駆けて来る。
「銀ちゃん、新八っ、これ見るアルっ」
伝わってくる微かな興奮。
定春から降りると神楽は自慢げに手を差し出した。
その先で四つの小さな葉が揺れていた。
通常は三つ葉のクローバー。
その中で、稀に見つかる四葉のクローバー。
それは幸運のしるしとされていた。
「四葉のクローバーだ。凄い、神楽ちゃんが見つけたの?」
「当たり前アル。這いつくばって探したネ」
神楽は得意げだ。
「これ持ってると幸せになるってマジアルカ?」
「それも姉上情報?」
「毎晩拝んだら酢昆布空から降ってくる言ってタネ」
「それは……」
疑わない神楽の瞳はきらきらしていて、本当の事を告げたものかと判断に迷う。
「言っちゃなんだが……悪魔だな」
「ははは……」
反論は出来なくて。
でも。
神楽をがっかりさせたくはない。
「酢昆布が降ってくるかどうかはわからないけど……」
新八は期待に輝く大きな目を見詰めた。
「四つの葉っぱにはそれぞれ意味があって……・えーっと、なんだっけ。銀さん知ってます?」
以前何かの本で拾った知識。
けれど気がない時に読んだから、記憶は底の方に埋もれてしまった。
「いんや。三色団子にそれぞれ意味があったら興味あっけど、花言葉じゃな」
銀時の助け舟は期待できそうになかった。
聞いてさらっと答えられてもそれはかなり微妙なのだが。
「んーと、確か健康と、愛情と……・なんだっけ」
「金とかじゃねーの?」
「そんな現金な……」
「きっと酢昆布ネ」
「いやいや、それはないから」
横からやいのと口出しされて新八は軽く苦笑した。
「駄目だ、思い出せないや」
どう頑張っても記憶が掘りおこせない。
「なら作ればいいアルネ」
眉を寄せる新八に神楽がなんでもないことのように提案をする。
「作るの?」
「そうアル。思い出せないなら葉っぱの意味を考えて新しく作ればいいアル」
常識に囚われない自由な発想で。
「葉っぱが四つなら銀ちゃんと新八と私と定春で決まりアル」
そう言って神楽は得意げに四葉を翳した。
四つだから万事屋メンバー。
それは単純な数の一致。
けれど。
銀時と新八と神楽と定春。
この四つが集まって「幸福」の意味を成すことはきっと偶然なんかじゃなくて。
「それ……いいね」
揺れそうになる視界を瞬きで堪えて。
新八は嬉しくて笑った。



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