「もう腹ペコネ」
神楽の声が弁当を催促する。
四葉はなくしてしまわないように手ぬぐいに挟み、新八が懐に仕舞った。
帰ったらジャンプに挟んで押し花にする約束だ。
「そんじゃ、食いますかねー」
銀時の手が風呂敷の結び目を解いて三段重を順にずらす。
現れたのは色とりどりのおかずに三色の俵おむすび。
デザートは神楽の酢昆布とウサギリンゴだった。
相変わらずの銀時の器用さに新八は内心で感嘆のため息をつく。
この器用さを何故仕事に活かしてくれないのかと、つい詮無い事を思ってしまいそっと飲み込んだ。
「いただきます」
手を合わせて。
三人と一匹で食事を囲む。
足が四本のタコウインナーや身の殆どないウサギリンゴ、茶化す銀時と怒る神楽の言葉の攻防に笑いは耐えなくて。
ここは万事屋ではないけれど、皆がいればそこが「場所」なのだ。
新八は弁当と一緒にこのかけがえのない幸福をしっかりと噛み締めた。
食事を終えて人心地つくと急激な睡魔が訪れる。
我慢しようと思ってもまるで重りをつけたように瞼が何度も下に落ちて、新八は意識が途切れる度にがくりとなりながら辛うじて正気を保っていた。
「新八、眠いなら寝ていいぞ?」
あまりにも我慢している新八を見かねて銀時が助言をする。
「う……は、い……そうしま、す」
実を言うと今日昼から来いと言われたことがずっと気になっていて昨夜よく眠れなかったのだ。
安心と幸せの充足感ですっかり気が緩んでしまったらしい。
気力で眼鏡を外すと新八は銀時の傍らにコテンと身体を横たえた。
右頬を受け止める下草の柔らかな匂いを肺いっぱいに吸い込んで。
銀時の手が、掴んだ眼鏡をそっと抜き取ってくれる。
それを感じたところで意識を飛ばしてしまった。
「新八寝ちゃったアルナ」
「疲れてたみてーだしな」
「銀ちゃんが心労かけすぎネ」
「……反論はしねーけどな。けどお前も共犯だろが」
「だって……新八、心配してくれるアル……」
「まーな」
新八が知ったら怒るかもしれないけれど。
二人は確信犯的共犯者。
手の掛かる問題児ほどきっと新八は放っておけないのだ。
「これ、銀ちゃん作ったアルカ?」
新八の腕にかけられたままの花冠。
シロツメクサと蓮華草、二色の花で編んである。
神楽はそっと眠る腕から抜き取った。
「力作だろ」
気持ちと同じ真っ直ぐな黒髪。
その色は、銀時の白と神楽の赤を鮮やかに受け止めてそこにある。
それは言葉にはならない、自分達の目にだけ見える奇跡。
のそりと寄ってきた定春がそっと黒髪に鼻先を寄せた。
「定春も新八大好きネ」
「ワンッ」
「定春、シ〜アルヨ」
「アォン」
神楽は定春の顔をかくように撫で、ころりと新八の隣に寝転んだ。
「私も寝るネ」
定春も、新八の髪に鼻先を寄せた位置のままドカリと身体を横たえた。
「帰りは大江戸マートで買い物してくか」
銀時も習うように地面に背を預けた。
「新八のオムライスが食べたいアル!」
「お前なぁ……今日くらい我慢しろよ」
苦笑交じりに銀時は呆れるけれど。
目を閉じれば買い物をしながら当たり前のように「何が食べたいですか?」と聞いてくる新八の姿が浮かぶのだ。
きっと今夜の食卓を飾るのは新八の手料理なのだろうと思うとやっぱり苦笑を禁じえなかった。どうしようもないくらいに甘やかされている事を自覚して。
耳から入るのは風が揺らす草の音と規則正しい静かな寝息。
さわさわと耳を擽るその音に、同じように揺れているであろう黒髪を浮かべながら銀時もゆっくりと意識を眠りの淵へとゆだねていった。
シロツメクサと蓮華草。
二色の花輪を頭上に並べ、それを中心にするように放射線状に頭が並ぶ。
草の上で眠る四つの色は茎から広がる四葉の形を思わせる。
神楽がそうだと決めたように。
銀時と新八と神楽と定春。
四つが揃って緑の上に咲くのなら。
それは「幸福」の花言葉に相応しく、きっと見つけた人を幸せにするのかもしれなかった。
20070524UP
花言葉はそれぞれ
四葉 →希望・誠実・愛・幸運(揃うと真実の愛)
蓮華草 →あなたは幸福です・私の苦しみを和らげる
シロツメクサ →約束・私の事を思ってください
本によって色々解釈は違うみたいですが。
という訳でキリリクです。
「定春と新八でほのぼの万事屋」
カウンター10000を踏んでくださったあなた様に捧げます。
ご要望に応えられているのかどうか甚だ疑問は残るのですが(汗)。
愛だけは溢れんばかりに込めました。
定春をあまりまともに書いたことがなかったので(犬も身近にいないのでイメージだけです:汗)かなり不安なのですが、お気に召せば幸いです。
リクエストしてくださってありがとうございましたv
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