後から悔やむと書いて後悔と読むのです。
後悔は先に立ってはくれません。
そして。
覆水もまた盆には還りません(自己反省)。
ああ、なんかすみません。
もっそいごめんなさいを連発したい気持ちでいっぱいです。
所詮私の書くものなので高が知れてはいるのですが。
ぬるくエロっとしてますので、苦手な方は避けてくださいませ。















新八はソファで膝を抱えていた。
時計を見て。
朝食を一緒に食べてから仕事に出かけてしまった銀時の不在を数える。
一時間、二時間、三時間……。
昼は出先で食べるからと出かけた銀時を見送ってもう五時間。
ずっと、銀時の事を考えている。
昨夜、初めて銀時に全部触れられて。
身体の中まで感じた熱の、余韻が消えない。
朝起きて、どんな顔をすればいいのかわからなかったのに。
ごく自然に一日が始まった。
銀時がそうしてくれたから。
食べる間中神楽はべったりで、何を考える暇もなかった所為もある。
だから。
いつもより少し甘いだけの、変わらない一日になるはずだったのに。
食事の最中に依頼の電話。
神楽は久しぶりに貴重なそよ姫からのお誘い。
奇しくも二人同時に出かけることになって。
いつものつもりで見送ったはずなのに、姿が見えなくなった途端、思考が銀時にばかり向かう自分に気がついた。
何度も手を止めながら後片付けだけ終わらせて、後は何も手につかないままずっとソファでぼんやりしている。
ぼんやりするから昨夜の熱が思い出されて。
それからずっと余韻をもてあましているのだ。
ここには新八一人きりで。
もう二時も回ろうというのに、昼食も食べていない。
開け放した窓から、室内に強い風が吹きぬける。
それが頬を撫でて新八はようやく意識を外に向けた。
綺麗に広がる青空が目に眩しい。
洗濯物を取り込まないと、とふと思う。
銀時がいる間に済ませてしまった洗濯。
衣類はもう乾いているはずだ。
布団はもう少しだけ……。
できる事なら太陽の光で昨夜の熱に上書きしてしまいたい。
強い風が竿にかけた布を大きくはためかせる。
煽られて飛んでしまっては大変だと、新八の脳が少しだけ銀時を忘れた。
のろのろとソファを離れてベランダへと向かう。
ちゃんと仕事をしようと思ったのに。
風に揺れる布の中に銀時の着流しを見つけて、また少しだけ寂しくなった。








積んだ山を畳むことは放棄して。
取り込んだ布の中から見慣れた着流しを引っ張り出して自分の肩にかけた。
羽織ったそれは袖は余るし裾は引きずる。
包み込むような大きさに、銀時の身体を思い出す。
何気ないことなのに、身体を繋げてしまった事で何故だか意味が深くなって。
自分のしている事がおかしくて新八はそっと笑う。
けれど脱ぐ事はせずに裾を引きずったまま机へと移動した。
椅子をくるりと回して脇を通る。
銀時は大抵眠そうな目で、机に足を乗せながらジャンプを読んでいる。
どうしようもなく駄目な姿のはずなのに、今はそんな姿も愛しくて。
それだけで、自分も相当駄目なのだと自覚する。
寝室にしている和室、いつも座っている椅子、寝そべっているソファ、何度注意しても神楽と覗き込むのを止めない冷蔵庫。
ぽてぽてと部屋の中を歩き回りながら、そこかしこに銀時の気配を感じてしまう事にたまらなくなる。
居ない事が、返って銀時の存在を大きく感じさせる。
「銀さん……」
ただ名を呟くだけなのに、呼ぶ声は熱っぽい気がする。
会いたくてたまらないような、気がする。
そんな自分に気付いたら。
一夜明けた今朝よりも、改めて「お帰りなさい」と迎える方が何倍も恥ずかしい事のような気がしてきて。
新八は途端にそわそわし始めた。
寂しくて、会いたいのに。
意識してしまったら、もうどんな顔をしてお帰りなさいを言えばいいのかわからない。
いつも通りのとぼけた顔で「んじゃ行ってくっから」なんて素っ気ないくらいの態度で出かけた銀時はきっと普通の顔で帰ってくる。
会いたいのに会いたくなくて、ただ戸惑う。
「どうしよう……」
仕事が終わり次第だから銀時の帰宅時間は決まってはいない。
銀時が帰ってくる前に、今日は家に帰ってしまおうか。
どうせ何も手につかないのだ。
居ても役には立たない。
食事の支度は材料が揃っているから銀時がすれば済む事だ。
銀時の顔を見るなんてとんでもない。
その気持ちはどんどん強くなるばかりで。
もういても立ってもいられなくなってしまった。
こうなったら一刻も早く帰ってしまわないと。
帰ることばかりに意識を集中していた新八は、だから気付けなかった。
背後から腕が伸びてきて。
「何をそんなに上の空ですかー?」
耳元の声と軽い拘束。
心臓が目に見えるならきっと数センチは飛び跳ねた。
声は出せなくて、逆に息を飲み込む。
跳ねた名残で心臓が、痛いくらいにどくどくと脈打った。
「三回ただいま言ったんだけど。聞こえなかった?新八君」
いつの間にやら銀時が帰宅していた。
「ぎ、ぎ、銀さん……」
全く気づかなかった事に酷く動揺して、やっと出た声はみっともないくらいにどもってしまった。
「はい、ぎ、ぎ、銀さんでーす。ただーいまっと」
四度目の正直、とばかりに挨拶をした銀時は疲れたと一言呟いて新八の肩に軽く重みを乗せてきた。
耳元の軽いため息と心地よい温もりに脈打つ鼓動が少しずつ落ち着いてくる。
「あ……」
「ん?」
「あ、いえ……」
体温を感じた途端さっきまでのそわそわはもうどこかに行ってしまって。
逆に離れたくない気持ちで一杯になっている。
現金な心。
でも、正直な、身体。
銀時が居る事にひどく安心する。
「ごめんなさい、なんでもないです……お帰りなさい」
「んー、ん」
「わっ」
首筋を急に噛まれた。
「何して……っ」
驚いて身じろいだけれど銀時の腕の拘束は緩まない。
決してきつくはないのに。
「新八の、一番無防備なとこは首」
軽く当たる歯の硬さに昨夜の記憶が蘇って、膝から力が抜けそうになった。
「ど、どういう意味ですか……」
知ってか知らずか。
よろめく新八の身体を銀時の腕はなんでもないことのように軽く支えてくれる。
「意味なんかねーよ。新八の首は美味そうだなーって、そんだけ」
「そんだけって……」
「まぁまぁ。んなことより、銀さんお疲れだから座らせて」
言うなりソファまで引きずられた。
「はわっ」
座らせて、といった銀時にソファの上に押し倒された。
「で?」
「え?」
上から見下ろされて、ぼんやりと、座るんじゃなかったのだろうか、と思った。
「何でこんな可愛い格好でお出迎え?」
面白そうに言われて新八は自分の格好を思い出す。
そういえば銀時の着流しを羽織ったままだった。
「これは……」
銀時の顔を見詰め、腕を伸ばしたくなる自分を自覚。
さっきまで、どんな顔をすればいいのかわからなくなっていたのに。
本当に、人間なんて単純だ。
それとも自分だけがこんなにも単純にできているんだろうか。
真相はわからないけれど、これが現実。
こうして顔を見てしまえば新八の中には好きしか見当たらないのだから。
会うのが怖いなんて、どうして思ったりしたんだろう。
「銀さんが、居なくて……寂しいなって、思って……」
いい訳も何も浮かばない。
本当の気持ちだけが自然と口から零れ落ちて。
「なんで新八はこんなに素直なんだかねぇ」
額の前髪を銀時の指先が優しく梳き上げる。
露になったそこに乾いた唇が寄せられた。
「……そういうのって、つまらないですか?」
手に入ってしまうと興味をなくすとか、追いかけている方が楽しいとか。
本で読んだりするけれど、やっぱり男だったらそういうほうが好みだろうか。
自分は男だけれど、あまりそういう気持ちはわからなくて。
「ま、楽しくはねーわな」
銀時に聞けばあっさりと答えられた。
「そ……です、か」
自分には理解できない気持ちでも、銀時につまらないのだと言われれば胸が痛いような気もする。
だからといって変われるわけではないけれど。
「どっかによ、素直の国ってのがあんじゃねーかと思うわけだ。お前見てっとよ」
ふっと銀時の鼻から息が抜ける。
「嘘です。つまんねーわけねっつーの」
眼鏡を取られた。
「素直にそういう顔するとこが、すげー可愛いです」
眼鏡を置く音を耳が拾って、目の前には楽しそうに笑う顔。
からかわれたのだとわかって軽く睨んだ。
「…………銀さんは、意地悪ですよね」
大人の余裕なのかもしれないけれど。
「意地悪なおっさんは嫌いなの?」
笑う顔にほんの少しの悔しさを感じて、その余裕を崩してみたくなる。
「意地悪でも、好きですよ。けど……」
じっと目を見て。
出来うる限りの素直な感情で、見下ろしてくる身体に手を伸ばす。
首に腕を絡めると背中を抱いてくれた。
そのまま力強く抱き起こされる。
新八は自分からぎゅっと抱きついて耳元で囁いた。
「意地悪じゃない銀さんは、もっと好き……です」
告白から一拍置いて。
こみ上げる笑いを堪えるように、触れた銀時の腹筋が揺れる。
「俺、一生お前に勝てる気がしねぇんだけど……」
銀時は楽しそうに敗北宣言をした。
深い意味はないのかもしれない。
けれど。
一生モノの敗北宣言に新八は満たされる自分を感じていた。








唇が触れる。
「ん」
食むように数度柔らかく歯が当たった後、それを慰めるように舌が舐めて離れた。
中には触れてくれないまま遠ざかる熱。
それが物足りなくて、瞬間。
「あ……」
自分でもわかるくらい、縋る色を含んだ声が漏れてしまった。
飲み込もうにも既に漏れ出た声は戻らない。
戸惑いを意識したら、銀時と目が合ってしまった。
「どした?」
にやりと上がった口元はやっぱり悔しいくらいに憎たらしい。
でも好きで。
好きで好きでたまらない。
何をされても、きっと自分は銀時を嫌いにはなれない。
たくさん、愛してもらったから。
身体が、銀時の本当を知っているから。
銀時の口が何を言ったって、きっと大切な事は見失ったりしない。
「な、めて……ほしいです」
この人が欲しくて。
唇を撫でた舌の温度を思い出す。
鼓動が早まって、呼吸が苦しくなる。
「ん?」
「口の中……もっと、たくさん舐めて……」
腕を伸ばして銀時を強請る。
恥ずかしくて目が潤んだ。
見詰める先で銀時の片眉がかすかに上がるのが見て取れて。
「そーいう可愛いおねだり、どこで覚えてくんの?」
問う銀時の言葉に新八はゆっくりと首を振った。
こんな気持ちは銀時にしか感じなくて。
だから覚える場所などあるはずもなかった。
銀時だから欲しくて。
銀時だから触れられたくて。
銀時だから、感じたい。
全ては銀時の所為で、新八の中に自然に湧き上がる感情なのだ。
「……教えたの、銀さんじゃないですか」
思ったから言っただけなのに。
何故か銀時は額に手を当てて大きく息を吐いた。
「それ、めっちゃクるんだけど」
意味が良くわからなくて首を傾げて見詰めれば大きな手が顎に触れた。
鷲掴むように固定され、人差し指が唇に触れた。
何かを言いたげな視線で見つめられて。
「なんですか?」
「んー、ちっとさ、好奇心を満たしてみてーんだけど……いい?」
見詰められたままゆっくりと指を挿入された。
指先が唇をくぐると半開きの歯を容易く割って指の腹が舌を撫でながら奥へと滑る。
視線を絡めながら少しずつ侵されていく口中に、けれど新八は拒む術を持たない。
必要も、なかった。
銀時が望むことは不思議なくらい新八の気持ちを荒らさずに入り込む。
第二関節まで入ったところで指が止まった。
長い人差し指が舌の上でゆっくりと遊んで。
「ふ……ぁ……」
「苦しくねぇ?」
「ぅ……ん……」
微かに頷いて見せた。
「んじゃもう一本、な」
先の指に沿わせるようにもう一本指が増やされた。
身体を広げられた昨夜の記憶が脳裏を掠めて新八の身体を震わせた。
少し怖くて傍にある銀時の着流しをぎゅっと掴む。
気付いた銀時が唇の端にそっとキスで触れてくれるのに気持ちがほっとする。
「このまま指、吸ってみてくんね?」
促すように指が舌を擽る。
言葉の内容に本当は戸惑ったけれど。
見詰めてくれる瞳は穏やかで、新八は目を閉じて言われるままに含んだ銀時の指をそっと吸った。
「あー、こりゃ倒錯的だわ。やべ……」
「う?」
「ああ、気にすんな。も少しだけな」
吸引に合わせるようにゆっくりと指が侵入を再開する。
「ん……ん、んっ」
根元近くまで差し込まれた指は新八の口内をやわやわと撫で回す。
苦しくて、顎が緩むと歯が当たりそうになる。
けれど力を入れたら銀時の指を傷つけてしまいそうで、新八は懸命に我慢した。
溜まった涙が目じりから、上手く飲み込み切れなかった唾液が口の端から、それぞれに伝い落ちていく緩やかな感触。
その両方を銀時の舌が舐め取ってくれた。
銀時の指が出ていこうとする。
「ぁ……」
この指先が自分の全てに触れてくれたのだと思うと愛しくて。
離したくなくて力に逆らえば、抜ける瞬間濡れた音が耳を打った。
自分の唾液で濡れた指が恥ずかしい。
拭うように銀時の舌が目の前でそれを舐めた。
見詰められての行為にゾクリとする。
「……どんだけ可愛い舌だよ、おい」
吐息が近付いて、唇をそっと舐められた。
「新八、口開けろ……」
素直に口を開けば銀時の舌がヌルリと差し込まれる。
「う……」
最初のキスで貰えなかった甘い熱。
誘うように何度も舌を撫でられて。
粘膜を擽る銀時の舌先についふらふらと引き寄せられた。
「……う……ん……」
飴を舐め溶かすような緩やかな舌の動きに頭の芯が朦朧とする。
甘党が影響するのかは知らないけれど、銀時の舌は甘い気がする。
唾液も酷く甘くて。
新八はとろりと与えられるそれを何度も嚥下した。



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