吐息が触れて、唇の冷やりとした感触に新八は口付けの終わりを知る。
時間をかけて柔らかく舐められた、ぼんやりとした意識の隅。
粘膜が離れる濡れた音を耳が拾った気がした。
「新八君?」
声をかけられ、視線を向けると楽しそうな銀時。
指で唇を突付かれた。
「そんなに溶けられちまうと銀さんブレーキ壊れちゃうんですけど」
笑う銀時に答えたいけれど、思考が上手くまとまらない。
声も出せない新八を、大きな手のひらが支えてゆっくりと倒した。
袴の紐を解く乾いた衣擦れの音にようやくハッとして。
「す、するんですか?」
とっさに出た声は情けないくらいに引きつる。
構わずに緩められて少し焦った。
「そんながちがちになんなって。ぎりぎり綱渡ってる理性が落ちんだろが」
「だ、だって……」
緩んだ袴が少しさげられ着物の帯も解かれる。
首筋に歯が当たって咄嗟に銀時の肩を掴んだ。
「しねぇから心配すんな。昨日の今日じゃ身体、辛いだろ?」
確かに、どんなに銀時が大切にしてくれても昨夜の行為は初めての新八にとって何の負担もないというわけにはいかなかった。
しかも一度では終わらなかったのだから尚更だ。
それは新八自身も望んだ事だから後悔は何もないけれど、でも求められたら躊躇してしまう程度には身体は辛かった。
その通りに口ではそんな新八の身体を労ってくれるのに。
何故か銀時の手は確かな意志で肌を辿っていく。
帯を解かれた着物の合わせは容易く左右に開いて、そこに覗く色濃い昨夜の名残に銀時の唇が触れた。
確かめるように舌が舐め上げる。
「ふ、ぁ……し、しないなら、何で脱がすんです、か……」
「そりゃ」
顔が上がって覗き込むように見詰められる。
手のひらに指が絡んで。
「しねぇけど、新八のことは欲しいから、に決まってんじゃん?」
顔の両脇で固定された。
縫い止める力は自由を奪うものではなくて、すぐに指が手のひらを擽るように手首へと滑っていった。
強く吸われた首筋に軽い痛みが走る。
そこに舌が這わされて、そのままするりと滑り出した。
鎖骨を通って胸につくとしつこいほどになぞられる。
ぬるく柔らかい感触に硬く立ちあがる胸との対比を感じ、新八は喉を鳴らした。
「銀、さん……ぎ……さ、ん」
下から脇腹を撫で上げられて、手のひらが胸元で止まる。
親指の腹で突起を揺らされて息が零れた。
柔らかい舌と少し硬い指の腹とで左右を同時に責められて、耐え切れない新八は銀色の頭を抱き締めた。
「あっん……」
舌の先で転がされて腕に力が入った。
「新ちゃん、動けねーよ」
勢いで胸元に押し付けられた銀時の口から苦笑が漏れた。
「もっ……もういいですっ」
これ以上動かれたらおかしくなってしまいそうで。
止めてはみたけれど、髪があたる感触にすら肌は震える。
「却下」
訴えは舌でぺろりとかわされる。
胸の先に擽るような余韻を残して銀時の頭は腕の中からスルッと抜けてしまった。
「いっぱい舐めてっておねだりしたの、新八だろ?」
伸び上がった銀時の鼻先がくっついた。
確かにそうは言ったけれど。
「も、もう十分っ……」
「俺が足んねーから駄目」
「んぅ……」
声を塞いだ唇は喉を辿って再び下へと向かっていく。
袴はとっくにソファの下に落とされて、ほぼ全てを晒している新八の身体。
銀時の手に下着も下げられてしまうと隠れた肌は袖に通った腕しかない。
指先に捉えられ、立ち上がった先端にチュっと音が触れると腰が揺れる。
「あ、ぁっ……」
形をなぞるように舌を這わされて堪え切れずに膝を寄せた。
挟む形になってしまった銀時は、それでも舌を止めてはくれなくて。
「やだ……」
「やだ、じゃねーの」
宥めるみたいに手のひらが腿を撫でた。
「新ちゃんが可愛くおねだりすんのがいけねーんだろ?」
「っ……してな、い……」
「した。すげー可愛い顔で、舐めて、っつったもん」
「そんなとこじゃ、な……っ、あ、んっ……」
突然全体を口中に含まれて、その熱に新八は頭を振った。
ヌッと粘膜が先端へと滑らされ無意識に腰が浮いてしまう。
舌が這って、粘膜で撫でられて、何度も先端を啄ばむように触れるのに。
銀時は決定的な刺激をくれない。
ぬるま湯に浸かるような快感に頭が変になりそうで。
もどかしさから救って欲しくて強請るように指先を銀髪にくぐらせた。
「も……イキた、い」
「もう限界?」
「う、ん……も、や……」
荒い息の間から懇願すれば銀時の顔が近付いて。
「んじゃイカせてやっから、もっかい可愛くおねだりできっか?」
指が優しく頬を撫でる。
「新八味だけど」
舌を差し出された。
「どうする?」
どうするなんて聞かれても、それこそどうすればいいのかわからない。
誘うように揺れるそれがさっきまで何をしていたのか知っている。
それでも。
一度息を吐いて、目の前の首に手を伸ばす。
震える舌で触れた銀時のそれは温かい。
いつも攫ってくれる強引さはどこにもなくて、ただ差し出されているそれを新八は思い切って口内に迎え入れた。
「ん……」
鼻に抜ける青い匂いは自分のもの。
それをかき消したくて、目を閉じてゆっくりと吸ってみた。
頬を包まれ唇が角度を変えると主導権はもう銀時のもので。
舌先で上顎を擽られる。
放置されたままの下半身がドクンと疼き足が銀時の胴を締め付けた。
熱を持ちすぎた自身はもう限界で、鼓動ばかりが早くなり口付けにも集中できない。
苦しくて、我慢しきれず唇を外した。
「はっ……ぁ……」
足りない酸素を取り込むように浅い呼吸を繰り返す。
「も、だめ……銀、さん……お願い……助け、て……」
滲んだ涙を拭うように銀時の指が目尻に触れた。
「銀さんも、もう駄目」
「え……?」
「これ以上はやべぇってこと」
「わっ」
捻った身体を背凭れに押し付けられた。
ソファの上で足の間にいたはずの、銀時の身体がトスンと落ちて腿を抱えられる。
ソファの下から見上げられる。
そのままズッと引き寄せられて腰がずれた。
銀時の目の前に欲望を晒しているその体勢に新八の顔は一気に赤くなる。
「な、ちょ……やだっ」
足をばたつかせ髪を掴んでみても銀時の指に捉えられてしまえばできる抵抗はそこまでで。
「あ……んっ」
「熱いな」
呟いた銀時に咥えられた。
「あぁっ……あっ……」
さっきまでの緩やかでもどかしい愛撫とは違う。
熱い粘膜と確かな舌先が目的を持って新八を追い上げていく。
「ひ……うっ、ん……っ」
望んでいたものなのに。
それをするのが銀時の唇なのだと思うと居たたまれなくて消えたくなる。
少しきつめに吸いながらあがる唇が先端を含んで止まる。
根元を支えていた指がゆっくりと動き出すのに終わりを予感した。
声を殺したくて腕で口を塞ぐ。
銀時の着流しの布をきつく噛み締めた。
「んっ、ん……んっ……ふっ……あっ……」
速さを増す指の動きにバランスを保てなくて身体が崩れ落ち、くにゃりとする上半身を銀時に捉えられた下半身が繋ぎとめる。
「ぎ……さん……あっん、んっ……」
それでも不安で銀時に手を伸ばした。
指先が髪に触れた瞬間。
「あっ、あっ……や、だっめ……あっ、あぁぁっ」
指と唇とで与えられた強い刺激に新八はドクリと欲望を解き放った。
「ん、やっ……も、離……し、て……」
達してしまった欲望を、未だ離さず吸い上げられるのにぶるりと震えて。
「は……ぁ……」
ようやく口内から解放されると外気が当たって冷やりとする。
視界の先は涙でぼやけて、瞼を閉じたら目尻から零れ落ちた。
ずるずると、銀時の腕に引かれた新八の身体はドサリと膝の上に降ろされて。
ソファとの間に挟みこまれる。
肩口に頭を抱きこまれたら耳元でゴクリと銀時の喉が鳴った。
喉を通った、それがなにかわかるから。
新八は銀時の腕の中で小さく身を縮めた。
「ぎんさ……ふ、ぇ……」
切なくて、ただ嗚咽が漏れる。
「泣くなって」
慰めるような指先が髪を大きくかき混ぜてくれて。
「新八が泣く事なんかなんもねーだろ?」
「だって」
「うん?」
「だって……なんか、銀さんが汚れちゃう気が、するから……」
決して綺麗なものだとは思えないから、それを銀時が口にすることは酷く抵抗がある。
「飲んだり、しないで……下さい」
溢れる涙は止まらなくて、ただ銀時の布地を濡らしていく。
決して嫌悪ではない。
それは拭いきれない羞恥なのかもしれなかった。
グスリと鼻を啜る。
「なぁ、新八」
伏せた顔を上げられる。
「俺の、飲んで……つったらどーする?」
着物の袖で顔を拭ってくれながら、口調は冗談交じりに軽い。
「やっぱ汚ねぇって……思っちまうか?」
そう聞かれて。
想像の域を超えないけれど、嫌だと感じない事だけはわかる。
だから、新八は否定に首を振った。
「なんで?」
問われても、明確な理由は見当たらない。
いつだって、新八の中にある答えは唯一つ。
他には知らなかった。
「……銀さん、だから」
目の前の瞳が、日向で溶けたチョコレートみたいに笑う。
甘い視線。
「じゃあ俺も、新八だから……っていったらわかるか?」
それは、銀時だからいいと新八が思うように、銀時もまた思ってくれているという事。
言葉は少ないけれど、たったそれだけの事で心が納得する。
新八はだだコクリと頷いた。
ただ、される事に抵抗がなくなるわけではないから本当はしないでほしいのだけれど。
きっと上手く丸め込まれてしまうから、今は黙っておく事にした。
「あの……」
「ん?」
「僕も、したほうが……いいですか?」
今日はずっとされるばかりで。
新八はほぼ脱がされてしまっているのに銀時は何一つ乱れていない。
欲望の兆しは見えないけれど、意を決して尋ねてみた。
「う」
両頬を指で抓まれた。
「なんつー危険思想を……」
「うう」
「銀さん崖っぷちなんだから煽んないでちょーだい」
笑って開いたままの着物の前をかき合わせてくれた。
「ホント、お前可愛い」
銀時が笑う。
耳朶に感じる唇以上に言葉は甘くてふわりとするけれど。
「それ…………やめて下さい」
新八は目を閉じて訴えた。
嬉しいような恥ずかしいような
可愛いといわれるたびに新八を襲う複雑な気持ちは何度言われたって慣れる事がない。
「それって、可愛いにかかってんの?」
コクリと頷けば銀時の声に不満のトーンが滲む。
「そりゃ無理だ。俺は黒いもんを白だって言われてもはいそうですかとは言えねぇのよ。わかっか?言われんのがやだったら可愛くなくなんなさい」
無茶な条件を出された。
「そんな……」
可愛くなくなれなんて言われても、そもそも何がどうして銀時がそれを言うのか新八にはわからないのだ。
だから。
「これから、可愛いって言ったらおやつ一回抜きにします」
「はい?」
「銀さんがお願い聞いてくれないから」
強硬手段に出ることにした。
「はい、はい?」
「はい、は一回、です」
「はいー?」
がしっと肩を掴まれた。
万事屋の台所事情及び財政を仕切っているのは概ね新八なのだ。
これは結構効果的なのではないだろうか。
「脳が理解を拒否してんだけど……新八君、今なんつった?」
「可愛い禁止令です。言ったらおやつ抜き」
「マジでか」
禁止令を受けた銀時は新八の肩に手を置いたまま真剣な顔で何かを考え込んでいる。
自分を見ているようでどこか別のところを睨んでいる視線。
「わかった」
意識が戻ると視線が繋がる。
「んじゃ、抜かれたらお前をおやつにするわ」
「は?」
それこそ脳が理解を拒否して新八はただ目の前の顔を凝視した。
「おやつ抜かれたら新八を食う」
「い、意味わかんないですっ」
可愛いといわれたくないだけなのに、どうしてそんな話になってしまうのか。
「だっておやつ抜かれたら銀さん死活問題だもんよ。自力で調達しねーとな」
「僕はお菓子じゃないですっ」
「じゃあ何で甘いんですかー?」
「あ、甘くなんか……っ」
「昨日も今日もすげー甘かったですけど?」
「っ……あんた、最低……」
「最低なおっさんは嫌いですか?」
「知りませんっ」
恥ずかしすぎて、まともに顔も見られなくて。
新八はぷいっと横を向いた。
「あらま、嫌われちゃったわね〜っと」
呟いた銀時に膝の上から降ろされた。
自分が招いた事態なのに、温もりから離されて心細くなる。
怒らせてしまっただろうか。
「そんな顔すっから可愛いんだっつの」
立ちあがるのを目で追えば苦笑と共に髪をクシャリとされた。
「俺の着物羽織ってそんな不安な目ぇされたらおっさんの理性は崩壊寸前よ?今日はしねぇって決めたんだからあんま煽んじゃねーの」
両手を掴んで引き上げられてソファへと沈められた。
「今身体拭く用意してやっから座って待ってろ」
頭に手を置いた銀時は、そう言い置いて風呂場へと向かった。
その背中を目で追って。
思っている以上に銀時が好きなのだという無意識の自覚。
嫌われたのかもしれないと思っただけで胸が痛かった。
どうしようもない人。
直してほしいところを上げたら切がないのにそれすら愛しさに変わってしまうなんて。
魅かれたのは魂で。
その魂が内包するものだから、どれ一つ欠けても銀時にはなりえないのかもしれなかった。
やがて湯を張った桶とタオルを手に銀時が戻ってくる。
丁寧に肌を拭いてくれる手は強くも弱くもなく丁度いい。
言葉をくれる人ではないけれど。
この手はいつもそれ以上のものを伝えるように新八の心に触れてくる。
肌からそれを感じたら、忘れていた空腹が蘇った。
「お腹すきました」
わき腹から腰へと肌を拭っていた銀時の視線がふっとあがって。
「何、それは銀さんが食べたいですっていうお誘い?」
「ち、違……僕、お昼食べてないんですってば」
「なんだ、そうなの?」
絶対に態とだと、あきらかにわかるような残念顔。
優しいのに意地悪で、意地悪なのに優しくて。
どうしてこんな人が好きなんだろうと時々わからなくもなるけれど。
補って余りある「好き」に勝てる感情はどこにもない。
「この後買い物に行きたいんですけど、付き合ってもらえますか?」
身支度を整えながら傍らで桶を片付ける銀時に尋ねた。
「いっけど、食うもんなんもねーの?」
「ありますけど、銀さんのおやつが何もないから……」
「支給してくれんの?」
「買い置きです。あげるかどうかは後で考えます」
「そりゃないんじゃねーの?新八君」
袴の紐を結んでいたら背中から抱きこまれた。
前に回された袖はソファの上で丸まっているものと同じ柄。
なのに、銀時が袖を通しているだけでこんなにも違う。
「新ちゃん聞いてんの?」
「聞いてますよ」
おやつを寄こせと訴える、情けない声を聞きながら新八は。
ああやっぱりこの人が好きだなと思う幸福が、身体中を満たしていくのを目を閉じながら感じていた。
その後向かった大江戸マートで銀時が新八を赤面させて、ひと悶着あったのは内緒の話。
銀時が欲しいといって新八が嫌がったのは6本箱入りの「苺アイス練乳入り」。
結局購入はしたものの、それはお預けを食らったまま万事屋の冷凍庫に眠っている。
けれど冷凍庫が空になるのはそう遠い話ではないだろう。
新八の怒りを絆すのは、きっと苺味のキスだから。
20070611UP
8618でリクエストして下さったまるる様に捧げますv
という訳で、まずは深く土下座を(捧げておいて失礼じゃないのか、それは)。
可愛いぱちをはむはむするお話だったはずなんですが、クリアできてるんだかできてないんだか。
自分で自分が見えてない感じです。
坂田さんになりたいです(変態ここに極まれり)。
いいのか坂田、何やってんの坂田、という心の声と共に書きました。
うちの坂田さんは新八舐めまわしてたら満足、みたいな部分がかなりある人です。
新八でイクより新八をイカせる方が楽しい、というね。
好物はじっくり味わいたいタイプなんじゃないですかね。
新八が可愛いのがいけないらしいんですけども、そこら辺は大きく頷いて賛同です。
まるる様、こんな話でごめんなさい……なのですが、お気に召していただけましたでしょうか(汗)。
リクエストしてくださってありがとうございましたvv
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