横になったまま背中から抱き締めてゆっくりと新八の肌を確かめる。
項を軽く吸い上げてシャツの襟をゆっくりと引き下ろすと現れる、滑らかな肌。
唇で、追いかけた。
下ろした布を肘の辺りに留まらせて前に手を回す。
浮いた骨に歯を立てて指先に触れる尖りを捏ねるように弄ってやると新八が頭を仰け反らせた。
黒髪がさらりと鳴る。
「……ふ……ぁ……」
何度も何度も愛してやると泣きそうな新八の声が俺に縋る。
感じやすい新八は指が撫でただけでも肌を震わせて。
「や……だ、め……せん、せっ……ん」
止めるような、促すような。
曖昧な力が俺の腕を掴んだ。
仰向けて、身体を乗せると涙で滲んだ視線とぶつかる。
浅い呼吸と上下する胸。
感じすぎる身体を持て余して、新八の足が遣る瀬無く寄せられた。
乱れた上半身とは裏腹にボタンの一つも外してない下半身。
形を変えたその場所はただひたすらに布地の中で窮屈そうで。
ボタンとファスナーを外してやると新八が少しだけほっとした息を吐いた。
それでもまだ下着一枚分遮られたそこは完全に自由にはなんなくて。
自分で下ろす事も憚られるのかただひたすらに俺を見詰める。
可愛くて、堪んねぇ。
けど。
もっと可愛い新八が欲しくて。
「ちょっと休憩すっか」
「え……」
放置するような俺の仕打ちに新八が途方に暮れた視線を寄こす。
「ちっとだけ我慢、な」
額にかかる黒髪をかき上げて慰めるように触れた。
「酷い事は、なんもしねーから」
「そんなの、知ってます……け、ど」
卓上に用意されたケーキの皿を引き寄せる。
「誕生日ケーキ、食わせて」
クリームに埋もれた真っ赤な苺を摘み上げる。
尖った先にたっぷりとクリームを掬い取って。
「新八……これ、咥えて」
苺を差し出しす。
戸惑いと信頼の、狭間で揺れる黒い瞳。
恥ずかしそうに、それでも素直な口元はゆっくりと開かれた。
やわらかな果肉を潰さないよう新八の唇が苺をそっと挟む。
直前に覗いた赤い舌に苺なんか放り出したい心境になったけど、そこはグッと我慢して。
苺の先端に口付けると間近で目が合う。
唇に付いたクリームを舌で舐め取ったら新八の目元がピンクに染まった。
目で笑いかけて、今度は苺についたクリームに舌を這わせる。
赤を覆い隠すようにたっぷりと付いた白を丁寧に優しく、まるで新八にするみたいに舐め取ってく。
同時にクリームでぬめった指で胸に触れると新八が可愛く跳ねた。
「う……んっ……」
俺と繋がったままの視線。
遮るための瞼を、新八は何故か閉じる事ができないでいる。
見詰め合ったまま、俺はクリームのすっかり取れた赤い果肉に舌を這わせ続けた。
舌の動きに自分への愛撫を思い出すのか、いつも以上に新八の身体は震える。
クリームの所為で滑らかな指の腹で小さな突起を転がせば。
「んんっ」
堪えきれずに目を閉じた新八が首を振った。
ぱさりと髪が揺れて。
目尻から涙、苺で塞がれた口元からは飲み込めない唾液が零れ落ちた。
その両方を綺麗に舐め取った俺はようやく苺を口に含む。
新八との口の間で果肉を潰せば甘い果汁が舌を濡らす。
苺味に塗れた甘い舌を何度も吸って。
歯を立てる度に新八の身体がどうしようもなくびくびくと震えた。
縋りつく腕が強くなって、太ももが俺を挟み込む。
ようやく唇を解放してやればまるで溺れる者の様に息が喘いで。
「も……や、せんせ……せん……せ……」
耳と、胸と、背中を。
唇と、指と、手の平で。
俺の全部で新八の全部を感じたい。
撫でるようになぞって存在を確かめた。
「服……脱がせて、くださ……」
限界の近い新八はまだ下着に覆われたままの下半身を気にしてる。
「駄目」
懇願の視線を優しく塞いだ。
可哀想だけど。
「このままイって」
可愛いから。
辛うじて腕に掛かったシャツと前だけ寛げたズボンは扇情的で。
「そん、あっ……んっ」
張り詰めた新八の最後を促すために胸に口付ける。
生クリームが甘く残る仄かな赤は新八の一番弱い場所だった。
強く吸って。
優しく舐めて。
甘く転がして。
執拗に繰り返せば新八の呼吸がだんだんと速くなる。
髪をまさぐる指先の力が抜けてシャツの背中に縋りついた。
「せんせ……さか、たせん、せ……」
胸を放して。
抱き締めてやればぎゅっとしがみ付いてくる。
抱き起こして向かい合わせた。
不安気に見上げてくる表情にキスをして下に手を忍ばせる。
「あ、さわっちゃ……やだ……あ……だ、め……」
限界まで張り詰めた形を布地の上からなぞってやると新八の腰が揺れた。
「ぅ……んっ……」
内側を濡らすヌメリを借りて布地を滑らせると俺を挟んだ太ももがキュッと締め付ける。
「……や、だ……でちゃ、う……あ、あ……せ、んせっ……ひぁ、あっ……っん……っ」
一瞬息を詰めた新八は次の瞬間びくびくと身体を震わせた。
力が抜けてくたりと俺に凭れかかる。
繰り返す、新八の浅い呼吸が部屋の中を満たした。
丸い後頭部をゆっくりと撫でてやる。
手の平に丁度いい丸みは触ってるだけですげぇ癒される。
形まで可愛いって……なんなんだよ。
たまに髪の間に指を潜らせて、俺は同じ動きを飽きる事無く繰り返した。
「平気か?」
問いかけに答えるのは赤くなった耳たぶ。
擦り付ける額の強さは新八のささやかな抗議だった。
「着替え、ないのに……」
覚悟してた非難の声。
けど、その内容は新八らしい的の外し方。
いつだって新八は俺の予想なんて簡単に飛び越えちまう。
口元が、弛む。
我慢、したくねぇな。
「別に着替え、いらねーだろ?」
ここだけの話。
俺は新八に出会ってから「神様」ってやつを信じることにしてる。
今年の俺の誕生日が金曜だってのはぜってー神様からプレゼントに違いない。
その証拠にカレンダーは月曜も赤。
新八が許してくれるなら時間は沢山、ある。
この意味が新八に正しく伝わっかな。
「やじゃなかったら」
落ちた手を取って、新八の視線を呼ぶ。
「俺の、触って」
指先にそっと口付けた。
「どした?」
俺を見る、微かに見開かれた瞳。
驚きを隠さない表情に嫌悪感は見えねぇけども。
「やっぱ引くか?」
してっていわれて進んでやりたいことでもねぇもんな。
無理強いする気は更々ねぇから俺は新八の頭をぽんと叩いた。
「変な事言ってごめんな」
「違います」
「ん?」
新八の細い指が強くシャツを引く。
「だって、触らせてくれるの、初めてだから……」
「あー………………ね」
戸惑いを滲ませる表情が可愛くて、堪らずぎゅっと抱き締めた。
確かに。
俺は新八に触るけど、新八には触らせた事がない。
そりゃ日常生活におけるスキンシップって意味でなら大いに触って欲しいし大歓迎なんだけども……なんてーか、そっち方面で俺に触らせた事はないわけよ。
一緒に風呂に入ってすらそうなんだから、新八に多少思うところがあったとしても仕方ないかもしんねぇよな。
見せなきゃわからないし、言わなきゃ伝わらない。
そんなの当たり前だ。
「さっきちゃんと欲情するって言ったろ?」
すげぇ大事にしたくて。
欲望と理性の狭間でかなりの修行を積んじまった俺は、武道の道ならかなりの有段者ってとこまで期せずして到達しちまった。
「ギリギリだったから」
「え……?」
「お前に触られたら、ぜってーアウトだったんだよ」
新八の身体にならもう何度も触ってる。
ちょっとだけ恥ずかしそうに快感を追う表情とか、そんなん見てるだけでもめちゃめちゃ倖せで。
俺の手を、素直に受け入れてくれる事が嬉しくて。
新八が喜ぶ事ならなんだってしてやりたかった。
触れてるだけで満足できるなんて自分でもビックリだけど、自分の事そっちのけでも何の苦にもなんねぇから。
けど、新八に自分の欲をぶつけるってのは別の話だ。
ぜってーヤバイってわかってた。
そんなんしたら、止まらないのは目に見えてる。
「人間年取ると臆病になんのよ」
傷付けたらとか壊したらとか、そんな風に相手を思いやってした事なくて。
俺の場合偏に年の所為ばっかとは言えないかもしんねぇけど、それでも。
こんなに誰かを大事にしてぇと思ったのは初めてで。
一歩を踏み出す勇気のなかった俺を、新八はずっと隣で待っててくれた。
「待っててくれてありがとな」
甘やかしながら、ずっと甘やかされて。
新八は俺なんかよりずっと強い。
「新八の事、全部欲しい」
願うようにそう告げた。
頬に触って目を合わせると黒い瞳はきらきらで。
見てるこっちを倖せにしちまうような微笑全開。
「貰って下さい……っていうか……僕だってずっと、先生の事、欲しかったです……えっと、あの、変な意味じゃなくて……ですけど……」
自分の言葉を訂正する、ちょっと慌てた新八はあんま見たことない顔してる。
もしかしたらまだ知らない顔もたくさんあるのかもしんねぇな。
「新八が欲しいと思ってくれんなら、意味なんて関係ねぇよ」
頬を滑ってキスを落とす。
「……はい」
ホント、何がどうしてこんなに素直な子に育つんだか。
新八が笑ってくれんなら、俺、何でもできる気ィすんなぁ。
「んじゃ、いただきますよ?」
「ど、どうぞっ」
肩に手を置いて精一杯にくれたキス。
伸び上がった新八が離れる前に舌を絡めて引き止めた。
何度も角度を変えて触れ合わせる。
隅から隅まで、新八の口ン中全部味わい尽くしても飽きる気がしない。
息継ぎの合間を縫って零れる声も拾いつくしたくなる。
「は……ふ……」
解放した新八は余韻と、それとは別の何かを含んだ不思議な顔で俺を見た。
「先生……」
「うん?」
「あの……ズボンの中、気持ち悪いです……」
「ああ」
脱がないままでイかせちまったのはちょっと可哀想だったかもな。
「脱いでもいいですか?」
……って、そうくんの?
ホント、健全だねぇ。
背徳感とか後ろめたさとか、新八の前じゃそういうの全部吹き飛ぶ気がするもんな。
「色気がねぇな、新八君。そこの返しは先生脱がせて、じゃね?」
「ご、めんなさい……」
あーもー、可愛くて死にそうデス。
すンげぇぐりぐりしてーんですけど。
「冗談だって、ごめんな。新八の素の返しがマジでメッチャ好き」
いつもいい意味で予測を裏切る反応は、どれもこれも新八らしい。
色気のないのが新八の色気。
そういうとこにめちゃめちゃそそられる。
新八が新八である事、それ自体が俺のツボなんだからもうどうしようもねぇよな。
「先生」
「ん?」
「脱がせて、下さい……」
「……ん」
柔軟な素直さと頑なな一途さ。
それを内包する真っ直ぐ伸びた健やかな魂。
こんな世界でたった一つを、自分が貰えるような人間じゃねぇことは俺が一番わかってる。
でももう手遅れ。
だって出会っちまったもん。
見つけちまったもん。
あの夜の出会いを、なかったことにはできねぇし、する気もねぇし。
「俺のは新八が脱がせて」
ちょこんと座った新八の手を取って引き寄せる。
シャツまで運んでやると真剣な顔でボタンに挑み始めた。
覚束ない指先がゆっくりと俺のシャツを開けていく。
さっき自分のボタンに触った時よりは震えの治まった指先に少し安心する。
全部外して裾を引き抜いた新八は一度俺を見上げる。
髪を撫でて勇気付けてやると意を決したようにズボンのボタンに手を伸ばした。
ベルトを抜いて、最初の一つをやっとで外す。
暫く悪戦苦闘した後、今度は途方に暮れた視線で見上げられた。
「先生、外せないです……」
ジッパーじゃなくボタンフライの俺のジーンズは新八の手には負えなかったらしい。
そのことに、酷く安心する自分がいる。
だってあっさり外されたらそれはそれでびびるし。
「んじゃ交代な」
新八が外した続きから前を開く。
実のとこ、余裕な振りして結構緊張してたりする。
俺自身こんな風に相手に自分を無防備に晒すのは初めてなんだっつの。
二度山を越えた俺の欲は結構な臨戦態勢で、引かれるんじゃねぇかと心配になる。
けど新八にそんな気配は微塵もなくて。
どころか、
「触っていいですか……?」
なんて聞いてくる。
なんだコリャ、保健体育の授業ですか?みたいなやりとりは、もどかしいどころか俺の顔を緩ませっぱなしだ。
俺が頷くと遠慮がちな新八の指が触れて、その控えめな感触にまた奥歯を噛み締める羽目になった。
「熱い……」
欲じゃなくて、ただ触れるだけの行為なのに。
柔らかい手の平に包まれると目の奥が一瞬真っ白になる。
この肌よりももっとずっと熱いだろう新八の中を、想像するだけでおかしくなりそうだ。
それでもあと少し、もう少しだけ我慢しねぇとな。
まだ指二本までしか挿れたことねぇ身体だから、ゆっくりと馴らしてやりたかった。
「今すぐお前ン中入りてぇけど……まずは三本入るまで頑張ろーな」
何を、とは言わなくても察した新八は流石に言葉が出ないらしい。
真っ赤な顔でこくりと一度頷いた。
素直さが、可愛くて。
素直さに、敵わなくて。
年齢と性別とモラルと。
何一つ許される事要因のない俺達だけど。
この気持ちを止めるのはきっと無理だと思った。


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