多分ちょっとやらかしてしまったかな;という気がしますのでヌルッとしたのが苦手な方は逃げてください。
お読みになる方はもんぺが書いたという部分を踏まえてお願いします(笑)
12月の末も末。
まあ師走とは言うけども、忙しさはそこそこで。
世間じゃクリスマスとかいう恋人達の一大イベントなんかもあったりしたけど、俺は無神論者なんでって事で普通にスルー。
第一そういうのは俺の柄じゃないわけだしね。
はい、想像してみてください。
レストランで、キラッキラの照明の下グラス片手に乾杯とか。
一体どこの月9ですかっちゅーね(あ?思考が昭和レベル?うっせっつの、どうせ三十路のおっさんですよ)
ましてやそれを俺がやっちゃうとかね。
いやいやいや、あり得ないでしょ。
つか見たくねぇだろ?
想像しただけで背中痒くなるからね、これ。
若気の至りでやっちまった事があるかもしれない、なんて曖昧な記憶はとっくに消去済み。
まあやってたっつっても強請られて内心嫌々付き合ってたとか、そんな感じの最低なあれだけど。
とにかく今の俺には無理。
俺は生まれ変わりました。
新生俺なんです。
もともと盛り上がってる世間に自分を嵌めこんで一緒に盛り上がるとかってできない性質だし、新八も、そういうのには頓着しない。
だから俺達は12月24日を至って普通の一日として別々に過ごした。
第一平日で学校あったしな。
25日が金曜で終業式。
でもって銀魂高校は冬休みに突入なわけです。
俺達にはそっちのがメイン。
休みだから泊まっていけるっていう新八をバイト先まで迎えに行ったら、売れ残ったから半額でした、ってケーキ土産にしてくれてさ。
新八がケーキ持ってにこり、だよ?
その時の俺の気持ち、わかる?
浮かんだのはシンプルだけど最大級の4文字。
それが何かは想像に任せるけど。
ま、とにかく俺達はそんな感じで世間を賑わすクリスマスを飛び越えたわけ。
特別じゃなくたってそんなささやかな事で人間満たされちまうもんなのよ。
つっても、クリスマスを否定してるわけじゃないんで悪しからず。
俺はやっぱ冬には半纏羽織って炬燵で蜜柑、紅白流して(流すだけ)あけまして、ってのが落ち着くわ。
特に何するわけじゃないけどダラダラ過ごせるってイメージがね、性に合うわけよ。
でもって腕の中に新八いたらもう言う事なしでしょ。
「先生、剥けましたよ」
「はいはい、サンキュ」
お判りですか?
俺は今正にその言うことない最高の状況にいたりするわけ。
二人でいるのに四面ある炬燵を一面しか使ってないとか。
蜜柑は脚の間に納めた新八が甲斐甲斐しく皮を剥いてくれてるとか。
これ、倖福の極みって言っちゃっても許されるんじゃね?
「相変わらず見事にツルツルにすんな」
天板に置かれたオレンジ色は綺麗に身包み剥がされて、筋一つ残ってない。
目の前で、薄い皮を通して甘い匂いをぷんとさせてる。
新八は蜜柑の皮を筋まで綺麗に取る派らしくって。
前にざっくり剥いて口に放り込む俺の食い方見て以来、蜜柑の皮むきは新八の仕事。
だって“気になって仕方ないから僕にやらせてください”って言うんだもん。
滅多にないおねだりが可愛かったんだもん。
こういうの、需要と供給が一致するっていうんかね。
「あと何個食べます?」
「そうな、んじゃあと二個」
手を伸ばして篭から取った蜜柑をぽんと板に置く。
「はい、よろしく」
「了解です」
まずは一つを手に取って新八が丁寧に剥き始めた。
新八は何か作業をしてると割と集中するタイプで、その間俺は軽く放置される。
でも、集中してる新八の傍でそういう空気を感じてるのは案外心地良い。
爪の短い指先がオレンジ色の皮を破ると柑橘系のいい匂いが空気に混じる。
新八と蜜柑の匂いってすげぇ優しい組み合わせだよな。
いつもより余計に癒されるわ。
「冬休みはずっとバイトあんの?」
剥いてくれた蜜柑を手にとって、ふくりとした塊を半分にして一房はずす。
「は、む」
聞いといて口元に差し出した蜜柑で口を塞ぐ、ってなちょっとした悪戯を楽しみつつ、定位置の肩に顎をのっけて自分の口にも蜜柑を放り込む。
ちょっとだけ面食らった新八は、それでも口に含んだ蜜柑をもぐもぐ噛んで飲みこんだ。
「甘いですね」
あのね、皆さん。
普通ならここは“何しやがんだ、このやろう”って言うとこですよ。
あっさり受け入れちゃイカンとこですよ。
なのにそこなの?ってツッコミたくなるずれた反応も、新八が言うなら自然とああそうだよねって。
しかも和んじまうんだな、これがまた。
「八百屋のおっさんに吟味してもらったからな」
前に自分で篭盛選んだときは見事に失敗。
やっぱ餅は餅屋ってこと。
「んで、バイトは?」
「えっと、みんな色々予定があるみたいで、早いうちから休みの届けが出してあって……お休み取り逸れちゃいました」
なるほど。
お人好しの新八君はこういう時貧乏くじ引いちゃうわけですね。
シフトの皺寄せが可能な限りで新八にいってるっぽい。
「大晦日と元日も?」
「はい、みんなそこら辺がメインみたいだから早い者勝ちだって、なんかちょっと揉めてました」
揉めてたっていうけど新八の表情はあくまでも穏やかだ。
代わってくれって頼まれたら、よっぽどの事がない限り融通してやっちまうんだろうなぁ。
「初詣、行けないですね……ごめんなさい」
「んや、そんなん別に気にすんなって」
頭をぽんと叩いてやる。
「時間はいつも通り?」
「入る時間が早い日もありますけど、終わる時間は同じです」
「んじゃ入る日教えて。休みの間は全部迎えに行くわ」
通常業務の時よりは全然楽だし、普段こんなマメな事あんまりしてやれないし。
なんてのは自己満足でしかないけど、なんでもいいからできる事、してやりたいし。
「でも先生、まだお仕事あるんじゃないですか?」
作業をする指が動きを止めて蜜柑と一緒に膝の上で蟠る。
そこから残骸を取り上げて。
「いいよ」
冷えた指先を包むように握り締めた。
「俺がしたくて勝手にする事なんだし、寧ろ新八には“毎回来るとかウザイから止めてください”って断る権利があるんだぜ?」
だから良いも悪いもないのだと、俺は柔らかな耳たぶに唇をつけた。
我が侭なら、断然俺の方が聞いてもらってる。
それはもう大人として恥ずかしいくらいに。
「あのね、先生」
「ん?」
「中学生の時に友達と遊びに行って、帰るのが遅くなった事があったんです」
「うん」
新八の指先が俺の手の平をそっと探る。
「電車の時間も中途半端で、どうしようかって困っちゃって……そしたら友達が、お父さんに迎えに来て貰うねって電話をかけてくれて……」
ごそごそと引き出した脚を炬燵との間で小さく畳んで俺の手を膝に運ぶ。
丸い膝小僧を覆うように載せられて、その上から新八の手が被さった。
「たったそれだけの、普通の事なんですけど……そんな普通の事がうちではできないんだなって思ったら、なんかちょっと切なくなっちゃって……」
淡々とした静かな声音。
「だから」
蜜柑の匂いが立ち昇る肩口で、俺は耳を傾ける。
「先生が迎えにきてくれるの」
さっきまで、温めてやるつもりで指先を包んでたのに。
「凄く、嬉しいんです」
新八の手の平に覆われた甲が温かくて、温もりと声に泣きたくなる。
俺が寂しくて嫌いだった夜のコンビ二を好きになれたみたいに。
新八の中で何か一つくらい、俺が理由になれる事があるなら嬉しい。
迷惑かけちゃいますけど、なんて小さな呟きは聞こえない振りをする。
「お前の嬉しいは俺のもん、俺の嬉しいも俺のもん」
「何です、それ」
新八がくすりと笑った。
「あれ、知らね?かの有名なジャイアン理論」
「知ってますよ、知ってますけど……そしたら僕は先生の嬉しいを貰えないじゃないですか」
声が少し不満気で。
「欲しい?」
「欲しいですよ。だって先生が嬉しいなら僕だって嬉しいですもん」
「そっか」
温もりの下からそっと手を抜いて、二人分の眼鏡を順に外す。
蜜柑の隣に置いたそれをちらと見た、腕の中の身体が少し熱くなった。
「嬉しくなったから、今からしていい?」
後ろ髪に唇で触れる。
畳んだ膝ごと新八の身体を腕に閉じれば、体温に溶かされた甘い香りが鼻に届く。
「こ、ここで?」
腕の中、新八が微かな戸惑いに身を縮ませた。
「ん?……うん、そうね、ここで」
予想外の返しにちょっとだけ面食らった。
だって“ここで?”って、それってすんのは無条件でOKしてくれちゃってるってことだろ?
いやいやいや、俺どんだけ愛されちゃってんのよって思うじゃん。
「え、と今すぐは……お風呂、入ってからなら……」
「それって風呂入ってからここで、って事?」
「……はい」
それ聞いて。
これはもう倒れるしかないでしょう、って事で後にパタリ。
だってさぁ。
場所なんて雰囲気じゃん、その場の流れじゃん。
風呂入ってもっかい炬燵に戻ってじゃあしましょうかって、あんまないよね?
ワンクッション入っちまうとやっぱ場所って順当に布団かベッドだろ?
けど新八は“ここで”って思ってるから、風呂入って改めてって覚悟をしてくれてるわけで。
普通ならその発想の滑稽さに笑っちまいそうなもんだけど……新八相手だとなんてぇか、健気さにそそられて堪んねぇっつかさ。
俺に合わせて背伸びする、一生懸命な爪先立ちが可愛くて堪んねぇっつか。
とにもかくにも、言葉にできないってこういうことなのね、って。
「先生?」
身体を捻った新八が不思議そうに俺を見る。
眼鏡のない、黒い瞳の迷いのない視線。
邪な人間が目を合わせたら浄化されて消滅します、って言われたら俺は信じるよ。
俺は何でこいつの目に映してもらえてんだろうなって、思うもん。
「新八、特殊プレイとかどう思う?」
不穏な事をぽそっと聞いて、伸ばした腕で袖を引く。
真っ白な新雪を踏みにじりたいとかそんな残酷な気持ちじゃなくて……ただなんとなく、どうしたらこいつは汚れるんだろうって。
純粋な疑問ってのかな。
新八は素直に身体を傾けた後、少しだけ考えて脚の間から抜ける。
そのまま隣にコロリと寝転んだ。
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