君がやさしく笑った
遠い世界の出来事みたいに
ぼくは孤独でウソつき
いつもユメばかり見てる
決戦は金曜日。
確かそんな曲がなかったっけ。
よく知ってるわけじゃねぇけど。
手に汗握るっつーか、女の子の一大決心とか覚悟とかが窺えるような歌だったような。
どう転んでも俺には到底似合わない歌……のはずだったのに、何故か今。
その心境がなんとなくわかる俺がいる。
爆弾投下は二時間前。
いつもの如く無自覚の、新八の口からさらりと落ちた。
「先生、今日泊まってもいいですか?」
場所は俺ン家。
いつもの、バイト前のプチデート……の筈だった平和な時間。
お茶飲みながらまったりしてたらいきなりかまされた。
新八は俺の向かい側。
両手で持ったカップを口元に当てたままの上目遣い。
俺にとっちゃそれだけでもかなりのもんなのに、そこに持ってきての発言内容にWパンチの衝撃波。
威力は軽く二倍以上。
「と、とと泊まる?泊まるって!?」
俺はといえばまるで落ち着きのない鶏で。
情けない姿……けどそれくらい大目に見てほしいね。
お茶を噴き出さなかっただけでも褒めて欲しいくらいだ。
取りあえず落ち着こう、とカップを置く。
変なとこに入り込みそうなお茶をゴクリと嚥下して大きく息をついた。
一息ついて落ち着いて。
折り畳みの簡素な机をヒョイと脇に退けた。
乗ってる食器が抗議するようにカチャリと軽い音を立てる。
俺と新八、遮る障害物がなくなって。
「新八君」
「はい」
「確認しますよ?」
咳払いを一つ。
「泊まる、というのはここに、新八君が、一晩寝て、明日の、朝を迎える、という意味にとってもよろしいのかな?」
最近してもらってない耳掃除の所為で聞き間違いがあっちゃいけない。
糠喜びなんて虚しすぎる。
だから俺は(情けねーのは承知の上だ)一字一句、ある意味自分に言い聞かせるように新八に問い返した。
「勿論そうですけど」
聞かれた新八はきょとんとしてる。
気持ちはわかる。
新八からすれば俺の質問は、目の前に鉛筆があったとして“これは鉛筆ですか?”って聞いてるようなもんだから。
わかるけど……けど、だ。
俺の気持ちだってわかって欲しい。
俺にとっちゃ新八に関することは慎重に慎重を重ねても重ね過ぎってことはない。
新八に対する俺のハートは硝子細工な訳ですよ。
ほんの些細な衝撃でも音を立てて砕け散る。
だから石橋だってハンマーで叩いて渡る。
てか寧ろ叩きすぎて壊しちまって、向こう岸の新八を指を咥えてみてるくらいの気構えでいるわけよ。
そんな繊細な(そこ、笑わないように)俺に齎された衝撃の告白。
「なんで?」
頭の中の何かが飛んで。
口を吐いて出た質問は、あまりにも頭が悪かった。
「姉が、友達と旅行に行くって……二日間留守にするから……」
それでも。
呆れもせず、きちんと返してくれるのが新八で。
「僕、勝手に決めてきちゃったんで。先生がご迷惑なら勿論帰ります」
「ちょちょっ」
帰ると言われて正気に返る。
俺の新八辞典に「迷惑」なんて字は存在しない。
「迷惑とかは有り得ねぇからっ」
「は、はい」
勢いで身を乗り出した俺に少し怯む新八。
ずいっと近付いて両肩を掴む。
新八とは。
数え切れないくらいキスをした。
何度も抱き締めて。
肌も知ってる。
でも。
中にはまだ、触れてない。
この新八の申し出に、その覚悟が含まれているのかどうか。
俺には怖くて確かめる術がない。
見つめる瞳は曇りがなくて、戸惑うような色は見つからない。
腹を括った覚悟がそうさせるのか、それとも裏のない純粋さの所為なのか。
やっぱり俺にはわからなかった。
「あー」
新八の、細くも安心感のある肩口に顔を埋める。
首元から微かに香る、新八の匂い。
鼻腔いっぱいにそれを吸い込むと酷く落ち着く。
落ち着くけど。
頭ん中は回りっぱなしで天使と悪魔が行ったり来たり。
やっぱり俺にはこれしか聞けなかった。
「…………なんで?」
新八の手が上がる。
遠慮がちな動きはかえって官能的に俺をなぞって、ゆっくりと背中へ回された。
「先生と、一緒に居たいから……」
優しい新八は、お馬鹿さんの質問にとてもわかりやすい回答をくれた。
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