俺の部屋はそんな立派なとこじゃない。
家賃は中の下、6畳の狭いワンルームだ。
ただ、狭いながらもトイレと風呂が分かれてるとこがポイントで。
申し訳程度だけど脱衣所があって、ちゃんと浴室がある。
それが気に入って借りた部屋だ。
何処にでもある銀色の、ステンレスの四角い浴槽。
いつもなら、透明のお湯がなみなみと入ってるはずの入れ物。
でも。
目の前の箱は何故かもこもこの。
ピンク色をした泡で一杯になっていた。
近寄って、手の平に一掬い。
妙に美味そうだけど残念ながら綿菓子でもなけりゃホイップでもない。
握った手の中でしゅわりと消えてぬるりと残る。
やっぱり泡だ。
ただ、やたらと匂いばかりが甘ったるい。
これって……いちご?
風呂が沸いたつったのは新八で。
て事はこれやったのも新八で。
俺が甘いもん好き過ぎるからってちょっと変わった趣向のサービスとかなんですかね。
まぁいいか。
匂いが甘いのもなんだか美味い気もするし。
気にするのは止めて俺は髪と身体を洗うとさっさと泡の中に身を沈めた。
泡風呂なんて初めてだよ。
洋式のユニットバスだとバスタブが長いから滑るんだろうけど、家の狭い風呂桶じゃ余裕で着く足が丁度よくストッパーになる。
何か変な感じだけども、たまにはいいもんですな。
鼻歌交じりでお湯に浸かってたら、はっ、脱衣所に人影が!?
なんてな。
“人が”っつったら該当人物は一人しかいねーっての。
「先生」
「どした?」
呼ぶ新八に返事をする。
「僕も、一緒に入っていいですか?」
はいはい、一緒にね、どうぞどうぞ入っていいですよっ……て、はいィィィィィィィィィ!?
ズボンッ。
気持ち的には全身お湯の中。
俺んちの狭い浴槽で、足がストッパーになってなきゃ間違いなく俺はこのピンクの泡の下で水死体だった。
今日の俺、ひょっとして新八に命を狙われてる!?
「先生?」
「お、おう、いいぞ」
否とは言えないし、言いたくなかった。
浴槽の淵に肘をついてドアを見つめる。
すりガラス越しにシルエット。
それが動く度に微かな衣擦れの音がして。
ガラス一枚隔てたそこに新八の裸体。
ああこれはかなりやばい。
ひらりと動く白はきっと腰に巻かれたタオル。
カチリと音がして。
扉の向こうから現れた新八と、目が合った。
「!」
眼鏡の無い新八の、大きく開かれたビックリまなこ。
頬は一瞬で朱をはいた。
ごめんね、先生かぶりつきで。
一歩を踏み出す瞬間に一拍の間を置いて右足が入る。
「お……邪魔しま、す」
「いらっさい」
左、右、左。
巻いたタオルのスリット部分が丁度俺側で、なんつーか……もう、あのね……。
下手をするとピンクの泡が更に色濃くなりかねない。
俺はザバリと身体を裏返し浴槽に背中を預けた。
隣で水音。
視線を向けたら片膝をついた新八が風呂桶でかけ湯をしてて。
思わず目頭を押さえちまった。
なんつー古風。
シャワーじゃないのね……ってとこに感動を覚えたりな。
新八の細腰にぴたりと張り付く濡れたタオル地。
ラインの強調は急性新八中毒をおこしかねない強い毒性を持つ。
裾から手を入れて、内腿を撫で上げたい衝動に、駆られる。
新八の手がスポンジに伸びるのを見て。
「新八君身体、洗わなくていいから」
「え……でも」
「いーから。早く来なさい、おいでなさい」
新八の躊躇は当然だけど。
「泡風呂ってのは中で身体を洗う為にアワアワしてんだよ。だから早く来いって」
「そうなんですか?」
さあどうなんでしょうね。
ホントのとこは知らねーけど。
「だよ」
口からでまかせ。
「じゃあ……」
俺の言葉を、信じてるのか騙されてくれてるのか。
タオルを外して(でもちゃんと隠すことは忘れない恥じらいがこれまたなんともね)新八が湯船に入る。
細い身体がゆっくりとピンクの泡の中に沈んで。
俺の向かい側、ちんまりと膝を抱えるように新八が座った(お湯ん中は見えねーからあくまでも想像だけど)。
挟んだ足に新八の肌が触れる。
「新八」
「は、い」
目を合わせ辛いのか、口元付近までピンクに沈んだ新八の返事は半分ぶくぶく言ってる。
見えないけども、きっと指先は抱えた膝小僧を所在無げに弄ってんじゃねーのかね。
柄にもなくドキドキが止まんねぇんですけど!的なテンションでかなりやばいかと思ってたけども、蓋を開けたら意外に冷静な俺がいる。
「風呂沸いたっつった時さ、お前なんか変じゃなかった?」
あん時、新八は何故か驚いた顔をしたんだよな。
「何か秘密があんの?」
新八の手の平が泡をすくってそっと潰した。
「一緒に、入るかって、その……聞いてくれると思ってたから」
所在無げな手の平がピンクで遊ぶ。
言われて思い出す。
あの時俺は新八に、後でいいのかって聞いたんだよな。
言われると思ってた言葉が予想を裏切ったものだったからあの表情だったわけだ。
確かにな。
俺の普段の言動を考えたらこうすればこう言う、みたいなパターンはあるわけだけど。
一応最低限の理性ってもんも持ってるわけで。
「新八君は、最初から一緒に入ってくれるつもりだったってことですか?」
足で少し強めに身体を挟む。
遊んでた手がぎゅっと合わさりちらりと上目で俺を見る。
そしてコクリと頷いた。
「そろそろさ、今日の趣向を教えてくれよ」
こんな甘いお湯の中で自分を差し出す事の意味。
狭い浴槽だ、伸ばした手はいとも簡単に新八を捕らえる。
泡の中から手を掬い出す。
「自分のやってることがどんだけ危ねぇことかって、お前ちゃんとわかってるだろ?」
捕らえたままの新八の手。
ちぐはぐな言動。
己の所業は棚上げの、最低な俺。
「何が、危ないんですか?」
泡のピンクに負けないくらい綺麗に紅潮したほっぺ。
睨みつけるみたいな黒い瞳はきらきらと強い光で輝いて。
「無防備すぎるって言ってんの」
ああ、俺何言ってんだ。
こんなんまるで、自分に優しく他人に厳しいただの身勝手発言。
掴んだ手を引けば。
何の抵抗もなく腕の中に収まる身体。
片方の腿に新八の尻を乗せて横抱きにする。
ここが正念場。
「こんな風にされて、怖くねぇの?」
手の平で撫でる肌は滑らかで。
膝から上って腿を割る。
奥に伸ばした指が触れれば、可哀想なくらいに肌が震えた。
「ここに、挿れんだぞ?」
泡を湛えたお湯は適度なヌメリを帯びている。
それでも、腹で探るそこは堅く閉じて容易には侵入を許さない。
それを体現するかのように新八の身体は俺の腕で硬く強張っていた。
「怖いだろ?」
耳元に囁く。
追い詰めて、怖がらせて。
俺に愛想つかして逃げてくれたらいい。
そうだよ。
新八じゃない。
怖いのは、俺の方だ。
拒む事無く何処までも俺を受け入れる、新八の深さが怖くてたまらない。
逃がしてやらないと、俺はいつかこいつを壊しちまうんじゃないかって。
「新八……頼むから、逃げてくれよ……」
縋るように抱き締めて。
情け無いのは承知の上で俺はそう呟いた。
「せん、せい」
ぎこちなく上がる腕はやっぱり拒まない。
小さく震える指先が俺の髪に沈んだ。
頬に唇が触れる。
響く鼓動は痛いくらいに新八の緊張を伝えるのに、肌の熱は柔らかく俺に寄り添う。
「するのは……怖い、です」
全部を俺に預けて。
「でも。先生を、怖いと思った事は一度も、無いです」
ぎゅっと首筋に抱きつかれた。
「僕、先生が好きです。だからって、盲目的になってるわけじゃないし……嫌な事は嫌って、ちゃんと言えます。だから……」
だから。
どうしてこいつは俺なんかにそんなことが言えるんだろう。
“だから、先生のしたい事、して下さい”なんて。
何を言えばいいのかなんてわかるわけがなかった。
ただ腕の中の身体を抱き締める。
何もかもが俺より小さくて弱いのに。
こんなにも強い心を持ってる。
俺はその強さに何度救われたんだろう。
ぎゅうぎゅうに抱き締めて。
ああ、もう離したくねぇなって、めちゃめちゃ思う。
「女の子達が、チョコレート買ってて……」
「ん?」
「バレンタインの」
「ああ」
そういやそんな時期だっけ。
「なんか、ちょっと羨ましいなって、思って」
突然の新八の独白に、少し戸惑いながらも耳を傾ける。
「チョコレートをあげたいとか、そういうのじゃないんですけど……好きな人の為に一生懸命になってるのがいいなっていうか」
新八の口から出る“好きな人”ってのが自分の事だと思うだけで堪らない気持ちになる。
唇に触れて、舌で中を探る。
柔らかく舐めて舌先をそっと噛んだ。
「ん……」
「それで?」
鼻先をつけたまま、至近距離で続きを促す。
「僕も先生に何かしたくて……」
「バレンタインに、くれんの?」
「い、いりますか?」
「いらないなんて、言うと思うか?」
見つめたまま触れれば、新八の瞼が閉じて唇が開く。
濡れた舌が甘く絡まった。
「こんな甘いバレンタイン、初めてなんですけど」
「僕で、いいですか?」
「新八が、いいよ」
頭の天辺からつま先まで。
零れる言葉すら、何もかもが俺に甘い“志村新八”。
奇跡みたいな存在。
「新八、ありがとな」
感謝したくて。
「この世に生まれてくれて、すげー嬉しい」
生まれてきてくれた事に感謝できる相手に出会えるなんて、俺にとっちゃそれこそ夢物語だと思ってたのに。
「僕が先生にとっての何かになれるなら」
新八が。
「なにより嬉しいです」
綺麗に笑った。




「せ、ん……ぁっ」
苺の匂いに包まれて、泡より可愛いピンクを吸い上げる。
唇が音を立てる度、甘い肌がふるりと震えた。
「全部俺のもんにしたい。すげーしたいけど、でもすぐには無理だから。ゆっくりいこう、な」
跨がせて、密着した下半身が俺の欲望を新八に伝えてる。
めちゃめちゃ欲しくて。
新八がくれるっつって。
でもだからって、じゃあ致しましょうかっていきなりできるもんでもない。
ましてや新八の細腰だ。
俺だって、自慢じゃねぇけどそれなりだし?
「お前の事、壊したくねぇから」
真っ直ぐな背骨を指先で撫で下ろし、その先にある場所にゆっくりと辿りつく。
「指、挿れさせて?」
肩口に歯を立てた。
「ん……」
触れる肌は緊張に震えたけれど。
「先生のしたい事、して下さい……」
新八の心は何処までも柔軟だった。
ゆっくりと。
慰めるように撫でながら、少しずつ。
初めての新八の身体を開いていく。
指先で探るそこは溶けそうに甘くて。


とても狭くて、とても温かい。
この世で一番気持ちのいい場所。
それを自分の腕の中に閉じ込めてるなんて、夢みたいな世界だろ?






生まれてくれてありがとう、とか。
生まれてきてよかった、とか。
出会えて、よかった、とか。
ベタな感じもするけども、思える自分も何かいいんじゃねーかとか。
ありがとう、って。
いろんな事に、感謝してみたりして、な。




えんど。

20080213 UP 


3Zです。
以前のシャツネタをベースに。
続きというわけでもなく、ああそういえばそんなエピソードもあったね、的な解釈で。
ヤッてしまおうかとも思ったのですが、どうにもこうにも。
先生を責めないで下さいませ。
誰が悪いわけでもないのです(おいィィィィィィィッ)
消化不良でごめんなさい。
でもこんなんが大好きです。

冒頭文。
前回書き忘れちゃったんですが今回も同じ。
SガSカオさん、「真夏の夜のユメ」の歌詞をお借りしました。
今回は歌詞の内容が少し暗いので微妙かなとも思ったんですがまぁいいや、と。
坂田先生は、新八がいることによって世界が成り立っているような、少し病んだ部分のある人だと良いかもしれないですよね、なんて事を思ってみたりもするので。

そして、私信ですが。
生まれた日を祝いたくて書いた話です。
小丸さん、あなたに感謝を。

20080218  もんぺ


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