090825
ちりちりと。
ちりちりと。
宵闇を照らす線香花火。
熱い火玉を身の内に抱え、触れる事を許さぬように火花を散らす。
強く静かに燃える灯かりを新八は自分の姉のようだと思う。
互いに腰を落とし向かい合った庭先。
夕涼みの縁台の、西瓜は既に温くなって久しい。
「もう夏も終わりねぇ、新ちゃん」
「そうですね、日が落ちると大分涼しくなりましたね」
姉の白い頬が仄かな明かりに照らされて、昼間とは違う色を覗かせる。
照らすそれが消える度、妙は水を張った桶に残骸を挿してゆく。
「ほら、新ちゃんもおやんなさい」
そればかりを束にした、徳用の線香花火。
数本を引き抜いて、妙が手を差し出す。
「ありがとうございます」
受け取って、一本を揺れる蝋燭の火につけると程なく火花が散るように開き出す。
火玉が少しずつ身を大きくしてゆく様を見て。
ああやはり姉のようだと新八は思う。
告げなければいけない新八の秘密を妙は無言で受け取って、その身の内に溜めている。
新八が家を空ける度、ぎこちなくなっていく笑顔。
薄皮一枚を剥ぐ様な僅かな変化を、血の濃さゆえに新八は感じ取る。
いつかは告げなければならないことだ。
それでも、そのいつかは今ではなくていいのだとずるずると逃げている。
妙が何を想うのか。
それを知る事が怖くてたまらない。
告げたくて、告げられなくて。
新八の内にも火玉が生まれる。
ちりちりと燃える火玉と火薬の匂い。
宵の闇を照らす明かりが不意に消える。
力尽きた火の玉が、ぽとりと寂しく地面に落ちた。
☆
線香花火は妙のイメージです。