090924







深夜二時。
遠く、遠く、サイレンの音が微かに響く。
僕は布団の中で息を潜めた。
だんだんと近付いてくる音が、どこか遠くに行きますように。
家の前で止まりませんように。
願うように祈りながら目を閉じる。
やがてサイレンは独特の歪んだ余韻を残して通り過ぎた。
ホッとして、僕はゆっくり息を吐く。
「眠れねぇの?」
頭の上から、少し掠れた銀さんの声。
ごそごそしたから起こしちゃったかな。
後から回った手の平が、ゆっくりとお腹を撫でてくれる。
「喉、渇いたなと思って」
「そっか……」
聞かれないから、言わない。
いつも僕のずるさを許してくれる。
「銀さん」
「ん?」
腕の中でもそもそと、僕は身体を回転させた。
胴に腕を回してしがみ付く。
ああ、銀さんの温度だ。
「銀さん、僕」
首元に額を擦り付けるとバニラの香りが仄かにした。
銀さん自身の匂いと混ざって、とても安心する。
「今から、したい……」
すごくすごく、甘えたい。
そっと顔を上げると銀さんと目が合って。
「……何を?」
意地悪をされた。
「………………なんでもないです」
甘えたいのに。
それ以上は何も言えない。
僕は胸元に顔を伏せた。
せめてくっ付いてたい。
「はぁ」
頭の上でため息が聞こえて。
聞こえたと思ったら身体が反転して、次の瞬間銀さんが覆い被さってた。
「新ちゃんは諦め良過ぎ。銀さん悲しいわ」
唇がそっと触れる。
触れたまま銀さんが舌をくれて、僕はそれをそっと舐める。
絡まない、穏やかな触れあい。
倖せだけど少しだけ物足りなくなる。
銀さんの片眉が上がった。
気付かれちゃったかな。
離れていく唇。
もっとして欲しい。
「銀さん……もっと」
袖を引くと銀さんがニヤリと口元で笑った。
「やっぱやれば出来る子だね。そうやってもっといっぱい銀さんのこと欲しがんなさい」
「うん……もっといっぱいして下さい」
素直にそう言ったら、褒めるみたいにゆっくりと髪を撫でてくれた。


また遠くでサイレンの音が鳴り響く。
近付いてくる音に息を詰める僕の耳を、銀さんの手の平がそっと塞いだ。
すぐに唇も塞がれて、僕の中は銀さんだけになる。
銀さんだらけの頭の中で、それでも僕は祈らずにはいられない。
近付いてくるサイレンが、無事に通り過ぎますように。
家の前で止まりませんように。

鳴り響くあの音が。
この人を連れて行ってしまいませんように。