補完妄想
隣がギシリと沈んだ事でジャンプに集中していた銀時の意識がふと途切れる。
横を見ると新八が座っていた。
常なら用意しているお茶は今日はなく、ただ座っている。
どうかしたのだろうかと思わないでもなかったが、お茶を飲みたくない日もあるのだろうとさして気にもせず銀時は再び視線を誌面に戻した。
「銀さん」
「んー?」
名を呼ぶ声はとても自然で、銀時も顔を上げぬまま返事を返す。
「僕の胸、触ってくれませんか?」
「……はい?」
今日はいい天気ですね。
まるでそんな話をするようにポツリと新八が喋るから、反応が遅れた。
「胸を触って欲しいんです」
誌面から新八へ。
移した視線はぼんやりと俯く横顔を捉えた。
きちんと揃えた膝の上、載せられた軽く組んだ指。
銀時を見るでもなく、新八の視線はそこに注がれる。
パタリと綴じたジャンプを脇に置いて腕を掴む。
「新八、抱っこさせて」
上がった顔が銀時を見た。
掴んだ腕をそっと引けば新八は素直に立ち上がり、銀時の膝の間に納まった。
一度ぎゅっと抱き締めて、着物の袷に手をかける。
ぐっと開いて緩めた隙間から右手を差し込んだ。
篭った熱が肌を撫で、手の平の冷たさに新八の肩が震える。
平らな胸を覆うように手を当てると鼓動が伝わってくる。
「ハイ、触りました」
片腕は腹に回して、新八を包むように抱え込む。
「……楽しいですか?」
「うん?」
「こんな平らな胸触って……楽しいですか?」
新八の声が淡々と銀時に問いかけた。
新八は、決して嫉妬深くはない。
寧ろ、言いたい事を呑み込んで内に溜めてしまうタイプだ。
そんな新八が酷く落ちる時がある。
丁度今のように。
銀時に異性が関わる時、折に触れそれは古傷が疼くように新八を苦しめる。
性別など関係ないのだとどんなに銀時が言い含めても、その傷跡が新八の中から綺麗になくなることはきっとない。
気にするなという方が土台無理な話なのだ。
だから銀時はその度に、飽きる事無く丁寧にその傷口を癒してやる。
開いた傷が血を出して、瘡蓋になってそっと剥がれる。
その痕が、薄っすらとした桃色の一筋に戻るまで何度でも。
請うたのは銀時だから。
「楽しいのは勿論だけどよ……なんつーか」
手の平の下。
皮膚を通して新八の命が伝わってくる。
「倖せ感じるっつーかよ」
薄い皮膚の下にある肉や血潮、響いてくる鼓動。
新八の命の証を感じる事が銀時にとってはこの上なく倖せなのだ。
「俺は、お前に触ってるだけですげぇ満たされんだよ」
お前でなければ駄目なのだと、意味がないのだと。
何度でも何度でも、飽きる事無く新八に刻み込みたい。
「新八の胸がまっ平らなら俺はまっ平らな胸が好きだし」
「本当に?」
「ん、ぺっタンコでもこことかすげぇ可愛いのも知ってるしな」
「あ……やっ」
指先でぷくりとした膨らみを触ると新八がその手を止めるようにぎゅっと抑えた。
染まった耳に唇を寄せて。
「天パに誓う」
「なら……信じます」
「……複雑なんですけど」
「あはは」
新八に笑顔が戻って銀時は安堵する。
その笑顔にいつも救われているのは自分の方なのだから。
いつかまた落ちるなら、必ず引き上げるから。
だからずっと隣で笑っていて欲しい。
持ちつ持たれつ支えあって、自分たちは上手くできていると思う。
きっと新八にそれをいったら不満の声が返ってくるのだろうけれど。
「新八君」
「はい?」
「ぺっタンコでも、大好きです」
「……嬉しいです」
手の平の鼓動が一拍早くなった気がした。
馴染むように吸い付いた手の平。
銀時は、引き抜くタイミングを完全に見失っていた。
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