3Z遊園地1(別3Z)

「先生、今日は絶対キスも無しですよ」


なんとなくいつもなし崩しに爛れてしまうから、たまには健全デートがしてみたくて。
新八希望の遊園地デートの、それが条件で。
守れるはずがないんだろうなと思ったうえでの条件提示だったのに、意外にも銀時は守ってくれた。
時折文句を言いながらものんびりと付き合ってくれた銀時と、定番過ぎて恥ずかしいけれど、一日の終わりはやっぱりこれに乗りたくて。
「先生、あれ」
新八は隣を歩く銀時の袖をちょんと引っ張って、ゆっくりと回るゴンドラを指差した。




止まらない速度にあわせて乗り込んだゴンドラに並んで腰掛ける。
ぼんやりと窓の外を眺める銀時の横顔は少し疲れて見えた。
いつもうるさいくらいに構ってくる銀時が、今日はただ隣で自分の我侭に付き合ってくれて。
「センセ」
「ん?」
「疲れました?」
「んー、ま、おっさんにとってはちっときついけど……でもなんつーの、心地よい疲労感ってやつ?」
すっと伸ばした銀時の手が新八の髪に触れる。
「お前が楽しかったんならそれでいいよ」
「凄く、楽しかったです」
「そか」
疲労を隠さないけだるさは自分の前で取り繕う事をしない自然体。
年上である銀時がそんな無防備な姿を見せてくれることが新八には嬉しくてたまらない。
「先生今日も飴、持ってるんですか?」
ポケットに甘味を常備している甘党教師。
「あるよー」
尋ねればカサリと音がして当たり前のように指先につままれる小さな塊。
「ほれ、ママの味」
ぽとりと落とされたそれはセロファンではなく優しい紙に包まれたミルク味。
熱で少し弛んでしまった塊は紙にくっついて上手く剥がせない。
苦戦している新八の手元を銀時が面白そうに見ていた。
結局上手くいかなくて、ところどころに紙のついたまま新八はそれを口に入れた。
途端にふわりと甘さが香る。
銀時がいつも持ち歩く、砂糖を固めたような甘さとは全く違う優しい甘さ。
溶ける温度も優しいこの飴は、銀時の優しさに似ている気がしてなんとなくほっとする。
「先生は?」
「それで終わり」
銀時の指の甲が、新八の唇にちょんと触れた。
「最後の一個は俺の愛だから。新八にやるよ」
冗談めかした口調とだらしなくイスに寄りかかるよれた背中。
窓から差し込む西日が照らす横顔に、募る愛しさが止まらない。
塊を転がして、これを更に溶かすであろう銀時の舌の温度を思い出す。
「先生」
自分で言い出したことだけど。
「うん?」
反故にしてしまいたかった。
「え、と……一緒に、な、舐めませんか」
笑いたくなるほど滑稽な誘い文句。
熱くなる頬が馬鹿みたいに火照るのがわかる。
顔を見るのは無理だった。
俯いた新八の頬を銀時の手の平が掬う。
「今日はキスなしじゃなかったっけ?」
ずるさを指摘されたようで、別の恥ずかしさがまた頬を火照らせた。
「ご、めんなさい……やっぱり、したい……です」
居たたまれなさに逃げ出したくて、でもそれ以上に触れたくて。
「素直で可愛いね、新八は」
そっと触れた唇に促され新八は乞われるままに明け渡す。
開いた口から入った舌が口中を味わうように舐めていく。
形をなぞるように粘膜を這って甘い塊に辿りついた銀時の舌はそのままするりとそれを攫って。
飴を自分のものにした唇はゆっくりと離れていった。
「あ……」
触れ合う熱が物足りなくて、零れた声は微かに滲む。
「先生が、いかに常に新八に触りてーかっつー欲求が、少しはわかった?」
キスはなしだと自分で条件付けておいて、それが守られたら寂しくてたまらなくて。
好きな相手を欲しがる事は当たり前なのだと思い知らされた。
自業自得だけれど、指摘される事は恥ずかしくて。
甲で口元を押さえた新八の、旋毛に口付けながら銀時が甘い吐息で囁くのにそっと頷いた。
「一緒に舐めたら止まんねぇから」
くしゃりと髪をひと撫でして。
「だから飴だけ貰っとく」
銀時はだらりと隣に戻った。


無造作に膝に置かれた大きな手に、新八はそっと指を絡める。
銀時の指が握り返してぎゅっと繋がる。
ゆっくりと回る観覧車が終点に近付いて。
開いた扉から引かれて出る。
無言のまま銀時はゆっくりと歩く。
新八を引く優しい熱がこのまま何処に向かうのか。
考える事は放棄して、ただ新八は指先に力を込めた。