※ある日のTV番組で、刺身のツマというのは切り身の血や水分を吸い取るために下に敷いてある本来食べないもの、食べるために添えてあるものはケンというんですよ、とやっておりました。
それが事実ならこの話成り立たないじゃん……と思ってちょろりと調べてみたら「ツマもケンも食べるもの」と書いてたり、某質問サイトでは「ツマは食べるもの」という回答が多数だったりと、余計にわからなくなるという事態に陥りました(笑)
もしツマは食べないものという説が正しいとしても書き直すのはちょっとムリなので、諸説あるらしいですよって事でこのままいきたいと思います。
20160115 もんぺ
オレノツマ
例えば刺身のツマだったり。
キャベツにパセリにプチトマト、なんてのは大概食い終わった皿に残ってたりすんだけど。
不思議な事に、だったら最初っからつけなくてもいーんじゃねーの?って事にはなんないのが付け合わせだったりするわけよ。
皿にペロンと刺身だけ、皿にどかっとトンカツだけじゃ、それがどんな名店の料理でも完璧とは言い難い。
存在自体は地味なのに料理の体裁を整えてくれる有能さ。
メインの隣でひっそりと、目立たないけどあると落ち着く安心感。
これって何かに似てんじゃねーのと思ったとこで隣の眼鏡と視線が合った。
「どうかしましたか?」
ハイキタコレ。
飲みかけた湯飲みを傾けて、きょとんと俺を見てる地味眼鏡。
主人公にそっと寄り添うとことか諸々、存在感がまんまじゃね?
和洋中ならこいつは和だし、刺身のツマなんて正にどんぴしゃ。
名実共にオ・レ・ノ・ツ・マでもあるわけだし。
そーゆーことで。
「食っていい?」
「はい?」
語っといてアレなんだけども実は俺、付け合せは残す派でした。
思ってはいるけど実際はわざわざ食うほどのもんでもねーしってとこあって。
今まで残す度新八に叱られてたけども、その重要性をしっかり認識したので悔い改めようと思います。
「だから食っていい?」
「何がだからなのかわかんないんですけど……」
意味不明な俺の言動に新八の眉は寄る。
けど、冷蔵庫のプリンは食後のデザートですよとか、戸棚のドラ焼きは神楽ちゃんが来てからのおやつですよ?なんつって戸惑いながらも構ってくれちゃったりするとこが新八の新八たる、つーかね。
一生懸命が可愛い16才男子なんて奇跡のコラボは志村新八だからこそ。
何なんですかね、この子。
思考から取り残された湯飲みを取り上げれば視線がふっと俺を見る。
「食ってもいーですかね?」
頬を挟んでちゅっとした三度目の問いかけで俺の意図はやっとこ新八に伝わった。
「あ……の」
わかるとほっぺが一気に赤くなる。
「の?」
「だ、駄目……です」
「何でよ」
指の先で髪を梳く。
耳を伝って鎖骨をなぞると新八の肩がきゅっと竦んだ。
「き、今日は絶対に行きたいタイムセールがあるんです、だから駄目……です」
ほかほかとした新八の手の平がやんわりと胸を押し返す。
だけれども。
嫌じゃなくて駄目だとか、んじゃ買い物の予定がなかったらいいのかねとか。
新八の答えはいつも俺に甘過ぎて、付け入る隙がありまくり。
けどまぁ赤いほっぺであわわってなってんの見たらお預けくらっとくのも悪くねーかなって。
「何買いてぇの?」
柔らかな両頬をムニムニすればぱっと笑顔の花が咲く。
ちょっと待っててくださいねってたたたと消えた新八は台所からチラシを持って戻ってきた。
「今日のセール凄いんです、見てくださいよ」
ほら、と見せられたのは馴染みのスーパーの折込広告。
ぐりぐりと赤マルがつけてあるところに “実演!マグロ解体ショー” の文字が躍ってた。
客寄せイベントを兼ねたセールらしい。
「へぇ、すげーじゃん」
「でしょ?」
満面の笑み。
俺の隣にぴょこんと戻った新八はまるで宝箱見つけたみたいに得意気で、それがまたなんとも言えず可愛いわけですよ。
「解体後のマグロは叩き売りされるんですよ。だから今日は絶対に行きたいんです。銀さんはお刺身がいいですよね?」
神楽ちゃんは丼にしてあげたいし、久しぶりに贅沢ができそうですよね、なんて笑ってくれちまう新八を俺はむはっと抱き締めた。
「わっ」
心臓鷲掴みとかよく言うけどさ。
心臓どころか何か色々掴まれ過ぎちまってどうにもこうにもって話だよこれ。
「んっと神楽ちゃんも見たいって言ってたんで大江戸ストアで待ち合わせ予定なんです」
銀さんも一緒に行きませんか?なんて腕ン中できゅってなりながら言うもんだから可愛さ余ってコンチクショウ。
で、ついうっかりの天邪鬼。
「新八がどうしてもって言うなら行ってやらねー事もない」
「……なんでそんなに上からですか」
「ツンデレ銀さん発動中」
「もー……じゃあ銀さんも一緒に来てください、お願いします」
面倒臭い人だなぁ、なんて溜息吐きつつも付き合ってくれるから新八で。
「んじゃ行ってやりましょうかね」
「ありがとうございます、嬉しいです」
にこりとか。
100パー天然モノの笑顔が返ってくるもんだからいじめっ子形無しです。
「何時?」
端的に問いかけると新八がちらりと時計を見る。
「銀さんが原付出してくれるならまだ余裕ありますけど……早いに越した事はないですし、もう出ましょうか」
財布取ってきますねって新八はするりと腕から抜け出した。
鍵持って、玄関で靴を履いてると少し遅れて新八が来る。
こんな貧乏暮らしでも戸締り用心火の用心、欠かさないとかホントしっかり者だねぇ。
「お待たせしました」
「おぅ」
揃えた草履に白い足袋がすっと入ったのを見て俺は立ち上がる。
「ンじゃ行くか」
「はい……あ、銀さん」
歩き出そうとしたとこで何か思い出したらしい新八が俺の袖をつんと引いた。
忘れモンかと見た新八は一見手ぶら。
でも懐には差し込んだエコバッグと財布がちゃんと覗いてる。
「どした?」
「あの、さっきはごめんなさい」
新八は少し照れ臭そうに笑った。
「さっき?」
いきなり謝られたけども身に覚えが何もない(逆なら別よ?)
「さっきって?」
「その……駄目って、言っちゃったじゃないですか」
「駄目って…………あ」
もしかして食っていいかってちょっかいかけたあれの事?
「最近切り詰めてたから暫く食卓にお肉系がなかったでしょ?だから今日のセールは絶対に逃したくなくてあんな風に言っちゃって……」
いやいやいや新八君、ありゃ決とったら10−0で君の勝ちですよ。
お前に非なんて100パーねーのに何で謝っちゃいますか。
「別に、あんなんいつもの事じゃねーの」
「それはそうなんですけど……でも銀さんの気分悪くさせちゃったと思ってちょっと心配だったから、買い物付き合ってもらえて嬉しいです」
向けられた、真っ直ぐな眼差し。
俺さ、昔から馬鹿正直でクソ真面目って人種は面倒臭いから苦手なのよ。
なのにどういうわけか新八だけはそこが正にドストライクなんだから不思議なモンだよな。
これ内緒だけど。
だからお前は新八なんだってやつ、あれ俺めちゃめちゃ愛込めて言ってっからね。
「ぎっ……んさん?」
今度は俺が袖を引く。
つん、てかもうぐいって。
「やっぱ行きたくねー」
「えぇっ!?」
「ってのは嘘だけど」
「ちょっと何ですかそれっ」
背中から閉じ込めた新八は腕の中でぱたぱたと騒がしい。
それが可愛いもんだから肩に顎のっけてにやにやしてたらすぐ横でばちっと目が合った。
「あ」
やべ、ばれた。
「もー、あんまり意地悪な事言わないで下さいよ」
おいおい、ほっぺたぷくってお前勘弁しろよ。
「一緒に行って、くれますよね?」
しかもねってなんだよ、ねってよぉ。
惚れた方が負けなんて、んなもん都市伝説だと思ってたのにな。
新八によって伝説は白だと実証されちまいました。
「へーへー、お供させていただきます」
「ありがとうございます」
これってもう完全白旗、降参するしかなくなくない?
腕の力を強くしたら新八が。
「銀さん、そろそろ行きませんか?」
俺に頭をコツンと寄せた。
負けは認めるけども新八君。
頼むから出かける間際、玄関先で可愛い事すんのやめてくんない?
300円あげるから。
原付の後に乗せた新八の、腕がそっと身体にまわる。
男の身体が密着するとかどうなのよって葛藤が、そういや新八には最初からなかったっけ。
「安全運転でお願いしますね」
「任せなさい」
キーを回すとエンジン音が軽快に響いた。
「新八ィ」
負けないように声を張る。
「何ですか?」
「刺身のツマは大根な」
「え、要るんですか?銀さんいつも残すじゃないですか」
「銀さんは大人になったんですぅー」
「あはは、何ですかそれ」
「いーから大根、な?」
「はいはい、何だかよくわかんないですけど野菜を食べてくれるのは嬉しいです」
「んじゃそういう事で、出すぞ」
「はい、お願いします」
原付を発進させると背中に体温がくっ付いた。
馴染んだ温度が同化していく心地良さ。
こいつが傍に居ねーとか、ちょっともう俺考えらんねーわ。
よく死んだ魚の目ェしてるって言われるし。
ってことは死んだ目ェした魚も同然だと言えなくもないわけで。
したら立派な刺身になる為には新八は必要不可欠ですよね、っていう。
「刺身はツマが命だし?」
「何か言いました?」
エンジン音に紛らせた声を新八は律儀に拾い上げる。
こういうとこがホントにホント新八君。
俺は何でもないと伝えるように結んだ手の甲をぽんと叩いた。
面と向かって言葉にすんのはこっぱずかしくてちょっと無理。
けどまあこの先も末永く俺のツマでいて下さいってな願いを込めて、重ねたままの手の平で新八の手をそっと包んだ。
そのすぐ後、ちゃんと両手で運転してくださいって叱られたのは勿論内緒のお約束。
終