ミント



「おはようございます」
「んー、はよ」
「ご飯もうすぐですから、早く顔洗ってきてくださいよ」
「ん」
上着の裾から手を入れ腹を掻きながらだらだら歩く銀時を見送って、新八は小皿に掬った味噌汁の味をみる。
我ながら上出来だ。
「ぐわっ」
火を止めたところで洗面所のほうから奇声が聞こえた。
新八は何事かと顔を向ける。
状況的には銀時しかいない。
声がしてから30秒程度。
銀時が台所に駆け込んでくる。
新八を見るなりがしっと両肩を掴み、状況を把握できずにいるのもお構い無しにいきなり口付けられた。
「んっ?!」
口を閉じる隙も与えられず入ってきた舌に新八はただ翻弄された。
歯磨きをしたらしく、ほのかに残るミントの味とついさっきの味噌汁の味が奇妙に入り混じる。
銀時とキスをすることは自然なことだけれど、朝っぱらから突然の、意味もわからぬ行動と息苦しさの抗議も込めて新八は銀時の胸を叩いた。
最後に舌を吸われて。
ようやく離されたときには新八の息は完全に上がっていた。
「い、いきなり何すんですかっ」
怒っているのに顔が熱いのが悔しくて新八はちょっと涙目になる。
「口直し」
新八の抗議もどこ吹く風。銀時はしれっと答える。
「それよりも。なにこれ」
そういって銀時が差し出したのは歯磨き粉だった。
品を見て新八は日用品の買出しで先日自分が購入したものだと認識する。
「歯磨き粉じゃないですか。銀さんの、なくなってたから買ってきたんです」
「そんなん見たらわかるって。じゃなくて、味」
「味?」
「そ、半端なく辛いんだけどっ」
銀時の手の中のチューブには「ワイルドミント」と書いてある。
売り場で見つけてどれほどワイルドなのか気になったから購入してみた事を思い出した。
「ワイルドミントってどんなんかと思って。辛かったですか」
「湿布の味すんだけどっ。これは口に入れていいもんじゃないよ?」
甘党の銀時には普通のミントですらきついのだ。
それが更に「ワイルド」ともなればかなりのものなのだろう。
「そっか、湿布の味がするんだ」
「新八君、もしかして銀さん実験台?」
興味津々、といった風な新八に恐る恐る銀時が尋ねる。
「まさか」
にっこり微笑む。
「でも目が覚めていいじゃないですか」
「脳天突き抜けるっつの。もっと甘いやつ買ってきて」
「もったいないじゃないですか」
「んじゃ、歯磨く度にキスすんぞ」
頬を挟まれてチュっと唇に触れられた。
まだ香るミントの息。
絡んだ舌の味を思い出してまた頬が熱くなった。
歯磨きの度にキスをされても、嫌じゃない自分がいるのを知っているけれど。
「わかりましたよ。でもちゃんと大人用を買いますからね」
「塩はやめてね」
「わがままばっか」
「新八にしかいわねーよ?」
にやりと笑われて。
朝っぱらから性質の悪い大人だと新八は思う。
睨んでいたら。
「まだベロが痺れてるよ。すげー辛かったんだぜ」
目の前に舌をだされた。
どうしたらいいのかなんてわからなかったから銀時につかまってちょっと背伸びをする。
位置だけ確認をしてぎゅっと目を瞑ったままぺろっと舐めてすぐ逃げた。
「早く神楽ちゃん起こしてきてくださいっ」
背後にまわってぐいぐいと銀時を寝室へ押しやってしまう。
手の中に残ったのは歯磨き粉。
銀時が使わなければ自分が使うしかない。
蓋を開けて指先に少し出してみる。
舌に乗せると銀時が言ったとおり湿布のような香りが鼻に抜ける。
確かに強烈だ。
でも、舌に感じるミントの味は甘い気がする。
それが何故なのかわかるから、新八の頬はただ熱くなるばかりだった。