同い年
「坂田君、座って」
新八は銀時の肩を軽く押し椅子に座らせた。
不在の保健医に代わって手際よく手当ての準備を整えると向かいの椅子に自分も腰を下ろす。
「まず消毒するからね」
断って、消毒液を含ませたガーゼを切れた唇の端にそっとあてる。
「って……」
液に濡れた布が赤く染まって銀時が顔を歪めた。
「この怪我どうしたの?」
教室に入ってきた銀時の傷を見たクラスメイトは、また喧嘩だなんだと口さがない憶測を囁きあっていたけれど新八はそうは思わなかった。
銀時が外見と態度から誤解を受けやすいタイプだという事をよく知っていたから。
「……階段から人間が降ってきたんだよ。んで受け止めたら肘が当たった。そんだけ」
銀時の答えにやっぱり、と思たら心が温かくなった。
保健委員の新八と、怪我の多い銀時と。
一番最初の切欠こそ喧嘩の怪我が原因だったけれど、それ以降何だかんだと保健室に連れ立つ理由は大抵銀時の不器用な人助けだった。
手当てをする新八にぶっきらぼうに理由を話してくれた照れ臭そうな表情が今も忘れられない。
「歯とか大丈夫?」
「ん、平気」
切れた箇所は傷口付近が少し腫れていて、見た目は少し痛々しい。
「絆創膏とか貼れないから、少し薬塗っとくね」
家庭の救急箱にも常備されている軟膏を指先にとって、新八は銀時の傷口に注意深く塗りつけた。
「少し口開けてもらっていい?」
「ん」
開いた唇脇の際にもちょんちょんと薬をつけた。
「はい、終わり」
「サンキュ……うぇ、まじぃ」
「ちょっと入っちゃった?ごめんね」
「ん、いい。誰かもっと甘い塗り薬とか作ってくんねぇかな」
「あはは、それよりも怪我しない努力しようよ」
溜息交じりの銀時の愚痴に備品を片付けながら新八は笑った。
「無理無理」
「なんで?坂田君運動神経いいんだもん、ちょっと注意したら絶対大丈夫でしょ?」
新八の言葉に軽く肩をすくめた銀時は立ち上がってベッドへと移動した。
羽織っていただけの上着を脱いでマットに仰向けに倒れこむ。
「怪我したらお前と保健室行けんなーって思うと避けんのとか面倒臭くなんだよ、まぁいっかってなる」
「え?」
「だから無理」
さらりと語られる銀時の言葉。
その意味をどう捉えればいいのか分からなくて、新八はただ銀時を見詰めた。
「新八」
銀時が手招く。
その仕草が自然だったから、新八は呼ばれるままに足を運んだ。
見下ろした銀時の表情からは何も読み取れない。
新八自身、人の気持ちを捉える事は不得手だった。
「俺、少し寝るから」
「え?」
「ここに居ろよ」
「……うん」
それだけ言うと新八に背を向けるようにごろりと身体を横向けてしまった。
暫く考えて、新八は銀時の背中越しに腰を下ろす。
背と背が触れた。
いつも一緒に居るわけではなかったけれど。
保健室が切欠で見せてくれるようになった一面は、なんとなく自分だけにくれた秘密のような気がして嬉しかった。
それがどういう事なのか、深く考えた事は今までなかった。
銀時と居るのは楽しい。
自分しか知らない、と思う一面を見せてくれる事が嬉しい。
そういう事を自覚して、ちゃんと考えてみようと思っても……やっぱりよくわからない。
穏やかな寝息を立てる銀時の横顔を見ていると少しドキドキするような気がする。
それはどうしてなのか、銀時が起きたら教えてくれるだろうか。
聞いてみたい気もするけれど。
このままずっと、隣で銀時の寝息を聞いていたいような気もするのが不思議だった。
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