お泊り








「銀さん、片付けも終ったんで僕そろそろ帰りますね」
脱いだ割烹着を腕にかけ、居間に顔を覗かせた新八の言葉にする事もなく社長椅子でくるくる回っていた銀時はその動きをぴたりと止めた。
言っている意味が分からないという表情で傍らに立つ新八の顔をじっと見上げる。
「なんで?」
「なんでって……星海坊主さんうちに泊まるっていうし、そしたらお布団足りないじゃないですか」
今日は神楽の父親が久しぶりに万事屋を訪ねてきている。
神楽の彼氏問題という予期せぬハプニングも巻き起こり、普段宇宙を飛び回っている父親と年頃の娘との間のデリケートな問題は少なからず銀時にもダメージを与えて継続中。
彼氏が出来たと浮かれる娘の交際相手を見極めるべく、このまま地球を立去るわけにはいかなくなったハゲオヤジは暫く万事屋の世話になると居座る気満々だ。
けれど普段泊りがけの客など迎えることのない万事屋には銀時、神楽の普段使いとたまに泊まる新八の分しか布団がない。
そうなると通いの新八の布団を客に譲る事になるのは当然の結果だった。
だから新八は帰ると言ったのだけれど、椅子にギシリと背を当てた銀時は不満そうだ。
「んなもん、お前が俺の布団で一緒に寝りゃ済む事だろが」
「……星海坊主さんがいるのに馬鹿なこと言わないで下さい」
「布団が足りねぇって立派な理由があんだから別におかしくねーだろ」
「通いの僕がそこまでして泊まるのは変ですよ」
「あのハゲは神楽の事で頭一杯でそこまで気ィ回んねーって」
「でも……」
「いーから」
銀時の手が新八の腕を掴んでそっと引く。
「今日は銀さんと一緒に寝る、はいこれ決定」
ぽすんと膝にのせられて、腕を滑った割烹着が床の上にひらりと落ちた。
星海坊主がいるからと同衾する事に異を唱えたのに。
逃がさぬようにと腰を二本の腕で抱き込まれ、首元には甘えるように銀の髪が埋められる。
それだけの事で新八の気持ちは簡単に絆されてしまう。
諦めて負けを認めた新八は優しい溜息を一つ吐いた。
肩口にのる銀時の頭をそっと抱く。
「神楽ちゃんの相手、いい子だといいですね」
「んなもん、うんこに決まってる」
「銀さんてば……」
自分達は本当の家族ではないけれど、共に過ごせば湧く情がある。
寂しさに血の繋がりなど関係ないのだ。
普段は隠したがっているけれど、人一倍寂しがりな銀時には今回の件が余計に堪えるのだろう。
「あのね、例えば恋人として姉上に銀さんを紹介してもきっと認めてもらえないと思うんですよ」
「……そりゃ」
新八の言葉に腰を抱く腕の力が強くなる。
「違います、そうじゃなくて」
誤解をしないで欲しくて新八も銀時の頭を抱く腕に力を入れた。
「きっとね、誰を連れてきたって認めたくない気持ちってあるんですよ。僕だって姉上がどんなに立派な人を連れてきたって嫌だって思いますもん。大事だっていうのはそういうもんなんですよ、多分」
「んなこと、わかってるよ」
「……ですよね、ふふふ」
よしよしと、慰めるように新八の手が銀色の髪を撫でた。
「仕方ないから泊まります。今日は一緒に寝ましょうね」
「エッチは?」
「するわけないでしょ」
「ばれねーように上手くやるから」
「意味わかんないです」
「先っちょだけでも……」
「駄目に決まってんでしょっ」
銀時のしつこい言及に新八は抱えた頭をぺちりと叩いた。
「新ちゃんは厳しいねぇ」
「常識の問題です」
「ははは」
顔を上げない銀時の声はいつもより少し頼り無い。
自分だけに聞かせてくれるこの声にはやっぱり弱いなと苦笑して、新八はさっき叩いた所に手の平をあてた。
「お風呂、一緒に入ります?」
「……マジで?」
ガバリと上がった銀時の顔が嬉しそうに綻んで。
「そ、その代わりちゃんと大人しく寝てくださいよ?」
「りょーかい、りょーかい」
新八は自分の頬が熱くなるのを感じていた。
「なら約束、な?」
「は、はい」
軽く頭を引き寄せられて唇同士が甘く触れる。
出会った頃はこんな可愛い約束事を交わせる男だと思ってもいなかった。
それが新八に対してだけなのだと気付いた時、二人は血よりも濃く繋がったのかもしれない。
温もりを分け合える、互いにかけがえのない存在。
「新ちゃんが嫁さんでホントよかったわ」
合わせただけで離れたそれに銀時は至極満足そうだった。