メガネ拭き券







「全く、銀ちゃんには困ったモンアル」
両手に持った皺の寄った封筒。
よれよれのそれを交互に眺めながら神楽は呆れたように溜息を吐いた。
「ははは、そうだね」
並んで歩きながら新八もまた諦めたような笑いで相槌を打つ。
甲斐性無しの万事屋の駄目リーダー。
少しでもかっこいいところを見たいと思ってなけなしの二人分のへそくりを託したのに。
年始回りは失敗の連続で、挙句の果てにお年玉だと思って手渡されたものにまんまと一杯食わされて。
「いい年した大人が手書きの券とかありえないアル」
貰ったお年玉で三人で焼肉を食べた。
支払いの時に封筒から出てきたのは銀時手書きの無料券。
その時の脱力感といったら……。
「ああいう人なんだって、分かってるのにどっかで信じちゃってるんだよなー」
「そこが銀ちゃんのずるいとこネ」
「……そうだね」
会計時、すかさず逃げた銀時を追いかけてぼこぼこにした。
けれどそれで見限るわけではなく、結局ただいまと集うのは万事屋なのだ。
どうしようもないとわかっているのに。
いざという時に煌めくその輝きが、どうしようもなく眩しい。
例えどんな事があっても、二人は坂田銀時という男を諦めきれない自分達をわかっていた。
新八と神楽は仕方がないねと顔を見合わせふふふと笑う。
「これ、どうするアルか」
神楽が封筒から手作りの券を取り出す。
「折角銀さんが作ってくれたんだし、貰っとこうよ」
「そうアルな、銀ちゃんが何かくれるなんてめったにないアルからな……ならはい、新八の分」
「え?」
自分の分だと神楽に券を手渡され、新八は一瞬戸惑った。
銀時の手作り券は二種類。
『銀さんのメガネ拭き券』と『銀さんの肩叩き券』だ。
神楽が新八に渡したのは肩叩き券の方だった。
「神楽ちゃん、これ違うよ。僕のはメガネふき券でしょ?」
「なんでネ、これで合ってるアル。私がメガネふき券アルよ」
「だって神楽ちゃん眼鏡かけてないじゃん」
至極当然の理由を告げると神楽はやれやれというように首を振った。
「新八はわかってないアルなー」
「え?」
「券をよく見るネ」
指に挟んだ券をぴらぴらと振りながら神楽は諭すように唇を開く。
「“銀さんのメガネふき券”って書いてあるネ」
「……うん」
「銀ちゃんのメガネ……って言ったら新八の事アル」
「は?」
「これは、ホントなら指一本触らせたくないけど一回だけなら触らせてやってもいい……っていう意味の券アル」
どうだと言わんばかりに自信ありげにニヤリと笑う。
だから自分の方がメガネふき券であっているのだという神楽の主張に新八は一瞬で頬が熱くなるのを感じた。