わかってねーよ
台所で洗い物をしていると背後から足音が近付いてきた。
気配を消すわけでもないそれは新八に身を寄せて止まるとぴたりと張り付く。
背中から包まれて、腹部にぎゅっと腕が回った。
「銀さん、どうかしましたか?」
万事屋で、新八に対してこんな事をする人物は一人しか該当しない。
だから新八は洗い物から視線を外す事無く背後の人物に問いかけた。
「んー?」
自分よりも小さな身体を抱きこんだ銀時は甘えるように肩口に顎を置く。
「邪魔しに来たんですか?」
応えない銀時を咎める事無く、新八は笑みを含んで問いを続ける。
「ちげーよ」
「でも洗いにくいんですけど」
「頑張れ」
「ふふ、銀さんて横暴が服着てますよね」
「うっせー」
「酷いなぁ」
横柄な口調とは裏腹に、労るように優しく身体に回る腕。
こんな風に口の重い時の銀時は新八に甘えたいだけなのだ。
それをわかっている新八はしたいようにさせている。
「あんさ」
「はい?」
「お前、最近人気あんね」
「そうですか?」
銀時の発言にくすりと笑った新八は最後の皿をカチャリと重ねて水を止めた。
「だって劇場版のあれ、すげー事になってんじゃん」
「あれは、僕は関係ないと思いますけど?」
新八は吊るしたタオルで拭いた手を銀時のそれにそっと重ねた。
今の自分とはかけ離れた姿。
それが五年後の己なのだと言われても新八には現実味がない。
「あの姿が人気がある事に、あまり僕自身は関係ないですよ」
勿論そんな人ばかりではないだろう事はわかっている。
それでもそうなった姿がもてはやされるのはやはり仕方のない事なのだろう。
「ミーハーな奴らは何もわかってねーんだよっ」
「銀さん……?」
回された腕から微かな震えが伝わってくる。
「俺は」
強くなる抱擁。
「お前が頑張ってんの、ずっと見てきたから」
体温を伝って流れ込む銀時の感情に新八は頬を緩めた。
「ありがとうございます」
新八は身じろいで弛んだ腕の中でくるりと銀時に向き合った。
「僕ね、銀さんや神楽ちゃんが認めてくれるだけで十分に嬉しいんです」
ダメガネとからかわれる事は日常茶飯事だけれど、二人の寄せてくれる確かな信頼を今は感じられるから。
「銀さんと神楽ちゃんと定春と、一緒に並び立てる万事屋の一員である事は僕の誇りです」
向かい合った身体に腕を回した新八は銀時を見上げてにこりと微笑んだ。
「新八……」
頭1つ分、自分よりも低い背丈。
レンズ越しにあるくるりとした大きな目。
丸い後頭部を際立たせるすっきりした襟足は銀時のお気に入りだ。
綺麗に伸びた首筋にそっと唇を寄せる。
「お前の良いとこ、俺はいっぱい知ってっから」
外見でちやほやするような輩に新八を語って欲しくない。
そんな輩に新八を取られてしまいたくない。
頑張り屋の小さな身体を抱き締めながら銀時は強く思う。
「僕は銀さんの駄目なところ、たくさん知ってますよ」
「あれ、銀さん今すげーアシストしてるよね?新ちゃんそれは酷くね?」
「あはは」
悪戯っぽく返した新八は銀時の情けない声に明るく笑った。
そのままぎゅっとしがみ付く。
「銀さんありがと……大好き」
胸元でくぐもる控えめな告白は銀時の耳に優しく届いた。
☆
完結篇の新八のキャラデザが発表された時、イケメンだなんだと騒がれてたのに憤って書いたもの(笑)
まあ私なりの「てめーがコイツを語るな」みたいなものかな。
2015 7月補足
もんぺ