副長のお誕生日(土山)








副長の嗜好品の買出しは週三回。
週一に纏めるとあるだけ減っていくし、毎日は流石に俺が辛い。
だから話し合いの末の妥協点が週三回。
「副長、買って来ましたよ」
休日の着流しで机に向かう副長の背に俺は声をかけた。
休みなんだから休めばいいのにと思うけど、趣味がないのを理由にして副長は時々休日も仕事をする。
「ああ、いつものとこに入れとけ」
「はーい」
監察なのに使いっ走り。
いい様に使われすぎて、いい加減それも慣れた。
「今日は特売でマヨが安かったんで少し多めに買っときましたよ」
「へぇ、そりゃ結構な事だな」
特に嬉しそうでもなく、副長の声は淡々と言葉を綴る。
相変わらず背中を向けたまま、立ち昇る煙草の煙だけがゆらゆらと形を変える。
知ってますか、副長。
きっとあんたは気にも留めてないんでしょうけど、今日はあんたの誕生日なんですよ。
だからね、安売りなんてホントは嘘でいつもより多い二本は俺からのささやかな贈り物です。
誕生日おめでとうございます、なんて別に思わないけど。
最前線で斬り込んでくあんたが、休日に着流しを着てそこに居る事が嬉しいからなんとなくプレゼント、みたいな。
「山崎」
「何ですか?」
「今度試しにハーフっての一本買って来い」
「ハーフって、カロリーハーフですか?」
「ったりめーだろが、他に何があんだ」
……いや、世の中ハーフはたくさんありますよ。
あんた知らないでしょうけど今やハーフどころかゼロのご時世ですよ。
なんて、思っても声に出してツッコむほど俺もバカじゃない。
「了解でーす」
買ってきたものを棚に詰めながら俺は返事をした。
副長の自室に保管なんてご自由にどうぞみたいなモンだけど、この棚に詰めたものが三日以内になくなったら我慢するか自分で買いに行くってのも買出しの条件として決めてるし。
今のところ買出しの三日目に棚の在庫が残ってた事は一度もないけどね。
「でも副長、急にカロリーなんか気にしてどうかしたんですか?」
「うるせーな、てめぇは黙って言われたもん買ってくりゃいいんだよ」
横暴が服着て歩いてるってこういう事いうんだよね。
これにも大概慣れちゃったけど。
「はいはい、わかりました」
マヨと煙草を入れ終えた俺は整然としたその並びに満足して棚の扉をぱたんと閉めた。
「山崎」
「はい?」
「お前の買ってきたハーフが美味かったらそっちに替えてやる」
思いがけない副長の妥協に俺は一瞬ぽかんとした。
だって、あの副長が。
「そ……りゃ、責任重大ですね」
なんか、潜入捜査の任務よりも緊張すんですけど。
でもまぁ、いくら好きでもやっぱり物には限度ってのはあるからね。
過剰摂取の嗜好品が副長の場合二つもあるし、片方だけでも多少気にしてくれるのはちょっと嬉しいかもしれない。
買出しに行くのは三日後だけど、それまでに色々リサーチしてみようかな。
あ、万事屋の新八君に相談してみるのもいいかもしれない。
あの子買い物上手そうだし、たまに買出しで行き会うと旦那の食生活について愚痴ってたりするし。
実のある参考意見が聞けるかも。
「だったら次の買出し期待しといてくださいよ、いいの見つけてきますから」
勝手に心強い味方を得た気がして俺はちょっと強気になれた。
「せいぜい美味いの探して来い」
「了解です、じゃあ副長おやすみなさい」
「おぅ」
結局最初から最後まで副長の背中と会話して、俺は部屋を後にした。
監察という仕事柄、見て分析しちゃうのが俺の癖。
鬼の副長の二つ名通りぶっきらぼうで横暴で、理不尽な要求ばかりする人だけど最近そればっかじゃないかもしれないって思い始めてる。
もしかして結構可愛い人なんじゃないのかな、とかね。
万事屋の旦那も似たタイプだけど、あそこは新八君が上手く手綱を握ってるよな(ていうか旦那があの子に懐柔されまくりな気がする)
似たタイプって言っても多分旦那は副長よりかなり柔軟だと思うけど。
副長は妙に堅苦しいからなー。
旦那ほどメロメロにはならなくても、新八君位素直で可愛いお嫁さんでも貰ったらそれなりに息が抜けると思うんだけど……あんまりその気はなさそうだよね。
まあ俺が使いっ走りの間は密かに健康管理でもさせてもらおうかな。
ばれたら絶対ボコられると思うけど。
とりあえず、美味いハーフマヨを見つけて副長を驚かせるのがちょっと楽しみな俺なのでした。

真選組監察 山崎退