愛妻家
男の俺が16才の、それも男の身体を抱き締めるとか。
頭で考えたら何が楽しいのってなる事も、新八を実際この腕に抱き締めちまえば理屈じゃねぇって気持ちが納得する。
「銀さんそろそろいいですか?」
「んー」
「いい加減晩御飯の支度始めないと、食べるの遅くなっちゃいますよ?」
「……手伝うし。だからもうちょっと」
子供みたいな俺の我が侭にあははと笑った新八は、手元の裁縫道具を片付けた後ぽすんと背中を預けてくれた。
居間のソファでダラダラしてたら道具片手の新八が俺の向かいに腰を据えた。
どうせ座ってする作業なら何処でやっても同じだろって、膝の間に引きずり込んでから小一時間。
「よく飽きませんね」
腹で組んだ俺の手に新八の手の平がぽんとのる。
「寝るとか食うとか生きてく為に必要な事ってあんじゃん?」
「ありますね」
「まぁそういうのと同じってーか」
「同じって?」
「つまりだね、新八君をこうする事は銀さんにとって生きるのに必要な事だから飽きるなんてありえませんよっていうね」
お天道さんと一緒に起きて朝飯食って仕事して。
新八が俺ンとこに来てから色んな事が変わったけど、一番はやっぱこれ。
人肌に安心してまったりとかそういうの、今までだったらありえねーし。
「ニュースでやってたんですけどね」
「あ?」
「1月31日って愛妻家の日なんだそうですよ?」
腕の中でごそごそと、姿勢を変えて新八が笑う。
「それはつまり、銀さんは愛妻家ですよねっていう振りなわけ?」
俺なんか、どう贔屓目に見たって愛妻家なんて柄じゃない。
迷惑、心配、その他諸々、掛け捲ってる自覚がばっちりあったりするわけですし。
それとも俺に限っては「妻に愛されまくってる人」だとか、そういう意味での愛妻家だったりするんですかね。
だったら全く持ってその通りだと言えるけど。
「別にそんなんじゃないですよ。ただ、こういう日があると誰かを大事にするっていいなって改めて思うって言うか」
俺の胸元にぽてんと凭れて頬をつける新八の耳は少し赤い。
「大事に、して貰ってるなって……思ったから」
くるりと回ってしがみ付く、胸に伏せた顔は見えない。
見えるのは新八の小さな丸っこい後頭部。
「俺、ちゃんと大事にできてんのかねぇ」
黒髪の、触れた旋毛が唇の上をするりと滑る。
駄目なのはいつも俺の方だから。
自信なんてものは何処にもない。
「わかんないですか?」
ちらりと上がった新八の目がレンズ越しに俺を見る。
「わかんねーよ」
「神楽ちゃんと僕を見てても?」
「……だって俺、ダメダメじゃん?」
「そういうのとは違うんです」
新八の腕が伸ばされて、両頬が温もりに包まれた。
「僕達の所に銀さんが“ただいま”って帰ってきてくれるの、凄く嬉しいんですよ?」
わかりますか?って新八がふわりと笑うのに、不覚にも目頭が熱くなる。
「ねえ銀さん」
「な……んだよ」
「家族にしてくれて、ありがとうございます」
不意打ちの告白に堪えた何かが溢れそうで。
顔を見られないように、俺は新八をぎゅっと抱き締めた。
☆