風邪っ引き
一人暮らしの風邪っ引きほど切ないモンも無いんじゃねーかと。
咳のし過ぎで腹が痛い。
咳のし過ぎで咽も痛い。
肺はひりひり引き攣るし、体の節はきしきし軋む。
寝返り打つのもしんどくて、うーうー唸りながらただひたすらに薄汚れた天井を睨んでるっていうね。
そういう地獄の只中に、背中に白い羽の見える可愛いメガネ君が尋ねてきたら……あんたならどうする?
事前にメールは届いてた。
でも俺こんなだし、うつるとやベーから来んなって返信したわけよ。
したらその数十分後にピンポン鳴って。
まさか新八だなんて思わねーから当たり前に居留守決め込んでたら初めての合鍵で新八君のご登場。
一瞬何が起こったのかわかんなかったね。
枕元に立った新八の、図らずも実践された「来ちゃった」に帰れって言えなかった俺は悪くない……と思う。
身体拭いてくれて着替えさせてくれて薬飲ませてくれて。
甲斐甲斐しい新八の世話に久々に生き返った俺。
空っぽだった腹ン中だって新八味のお粥でホコホコだ。
ベッド脇にうつ伏せて新八は只今転寝中。
腕にのせた小さな顔は半分白で隠れてる。
ちゃんとマスクしてきましたってさ、それは完全防備なの?
そりゃ風邪には効くのかもしんねーけど、俺に対しては完璧無防備。
可愛いだけで意味ないからね。
シーツの上に流れる髪に伸ばした指を絡ませる。
触れた黒髪は相変わらずさらさらだ。
来んなつったのにやっぱり心配だったから来ちゃいましたとかさ、涙腺締めんのマジ大変だったからね、俺。
カサつく皮膚の上をスルスルと滑る髪。
触り心地が気持ちよくて、繰り返し撫でてたら新八が身じろいだ。
「ん……」
浅い眠りは直ぐに覚める。
「先生……」
「よぉ……」
無様に掠れた俺の声に新八がそっと眉を寄せた。
「何か温かいもの飲みますか?」
髪を弄ってた俺の手を柔らかな手の平が包み込む。
労るような温もりは俺には薬よりも効果的。
病は気からってのも案外馬鹿にできねーな。
「あんがと、けどいいよ」
「でも咽、痛くないですか?」
「ん」
小さく頷けばマスクに隠れた顔がほっとしたように微笑むのがわかった。
「先生」
「ん?」
「今日は勝手に来たりしてごめんなさい」
生真面目な新八の律儀な謝罪。
言いつけを守らなかった事に気が咎めるんだろう。
申し訳なさそうな顔をされて逆にこっちの胸が痛くなる。
「気にすんな、すげー嬉しかったから」
「本当ですか?」
「ん、ただし」
包まれた手の平をきゅっと握り返す。
「これでうつって今度はお前が風邪引いた、なんて事になったら許さねーよ?」
逆の立場だったなら新八の風邪なんて俺が掻っ攫ってやりたいと思うけど、新八が俺の所為で苦しむなんて事は絶対させたくねーから。
冗談めかした俺の言葉に一瞬きょとんとした新八は、そのあとほわりと微笑んで。
「はい、気をつけます」
なんて優等生の返事をくれた。
帰り際、おでこなら触ってもいいですか?って唇があてられた。
新八の看病と最後に貰った最良の特効薬。
俺、明日には全快しちまうんじゃねーの?
とりあえず治ったら速攻新八抱き締めねーと、触りた過ぎておかしくなりそう。
なので今日はこのまま大人しく寝ようと思います。
ああ健康って素晴らしい。
だけど眼鏡の天使が看病してくれんなら風邪っ引きも案外悪くないなんて罰当たりな事を考えながら俺は眠りについたのでした。
はい、作文。
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