「あ、いい匂い」
声につられて首だけ振り向いたら入り口からひょっこり新八が顔を出していた。
「デザートですか?」
そういいながら新八は銀時の隣に立つ。
全ての下ごしらえを終えた状態にしておいて、麺を茹でるお湯が沸く時間を使い銀時はデザートのプリンを作っていた。
台所にはバニラエッセンスの甘い香りが漂っている。
「この間特売だーつって卵買い過ぎただろ?賞味期限のやばい牛乳があったし丁度いいかと思ってよ」
「ホント器用ですよね。やればできるくせにやってくれないんだもん、ずるいですよ」
「まぁまぁまぁ、こーいうのはエネルギーいんだよ。おっさんは電池切れんの早ぇーからさ、たまにで勘弁してくれよ」
「充電ばっかしてるくせに。漏電してんじゃないですか?」
「……あれ、たまねぎも切ってないのに涙が出るんだけど」
「あはははは」
くだらないやり取りをしながらも銀時の手は止まらずに作業を続けている。
泡だて器でかき混ぜたボールの中身を丁寧に漉し、器(神楽用は丼だ)に振り分けながら隣で覗き込んでいる新八をちらりと見て。
「どした?座って待ってていーぞ」
「なんか手伝うことないかと思って」
ごく当たり前のことのように新八はさらりと言う。
流しにボールを置こうとしていた手を止めて、銀時は肩口辺りから隣で見上げてくる新八の顔をじっと見た。
ボールの底に残ったプリン液。
指先でそっと掬って新八の口元に寄せてみた。
新八の視線が少し戸惑ったように銀時の顔と指先を行き来する。
やがて意を決したようにゆっくりと唇を開き、控えめに出した舌先でそっと指先についたクリーム色の液体を舐め取った。
「……美味しい、です……よ?」
小首を傾げて見上げる頬はピンク色。
「一個だけ手伝って欲しいんだけど」
「はい」
向かい合って新八の腕を自分の身体に回させる。
「ぎゅってしてみ」
「こうですか?」
銀時の身体に回した腕にいわれるままに力を込めた新八はまるで木にしがみつくコアラのようだ。
「一分な」
「え?」
ぴったり張り付いた新八の顔を挟んで上げさせて銀時はその唇を唇で塞いだ。
「!」
口付ければ誘われるように舌が吸い込まれる。
新八にそれを言えば「誘ってませんっ」と真っ赤な顔で反論されるだろうけれど、銀時にしてみれば新八の存在は何もかもが誘惑なのだ。
背中に回った手がぎゅっとシャツを掴むのを感じながら銀時はゆっくりとプリン味の新八を味わった。
唇を開放した途端、新八は顔を隠してしまった。
シャツの開いた胸元を新八の前髪が擽る。
「これ、お手伝いなんですか?」
「当たり前じゃん。つーか重要任務よ?新八君」
つむじに唇を押し当てて、手放し難い愛しい温もりを包んだ腕に一度だけぎゅっと力を込めると銀時はその身を離した。
くるりと新八を裏返すと両肩を押して出入り口に向かう。
「手伝いあんがとな。美味いの作ってやっから、偶にはのんびり待ってなさいって」
ほれほれほれとリビングへ新八を追いやる。
「えっと、じゃあ楽しみに待ってます」
「よし、上出来」
ぽんと肩を叩く。
それと入れ違うように神楽の声が飛んできた。
「銀ちゃん、何もたもたしてるアルか。お腹と背中がぺったんこアルよ」
「かーぐらちゃん?お前は少し遠慮ってもんを覚えなさい」
「ぺったんこア〜ル〜」
新八がくすりと笑いながらリビングに向かった。
「神楽ちゃん、銀さんプリン作ってたよ」
「マジでか。バケツプリンアルか?」
「あはは、バケツは無理だよ。あ、ほら、北島五郎」
「わぉ、五郎サイコーネ」
神楽の意識がテレビに逸れて、銀時はやれやれと思いながら作業に戻る。
その口元が緩むのは仕方が無かった。
鍋の湯がぐらぐらと煮立つ。
昔、自分のために沸かすお湯から立ち上るのはただの水蒸気だった。
今この鍋から立ち上る湯気が幸せだとか思ってしまうのは背中越しの気配を感じるからだ。
銀時は、なんだかそわそわして落ち着かない気持ちを麺と一緒に鍋に入れた。
このくすぐったさがあいつらに伝わるだろうか。
言葉にできない幸せが身体の中から伝わればいい。
そう思いながら作業を続けるのだった。
痺れるように空気を震わせていた雷はいつの間にか遠ざかり、雨も峠を越したようだ。
遠く聞こえる雷鳴は遥かかなたの空にある。
嵐はやがて遠雷となり、梅雨を連れ去り夏を呼ぶ。
明日の空はきっと快晴。
絶好の洗濯日和にきっとなる。
まだ少し雨の残る薄闇の中。
万事屋の窓が明るく浮かぶ。
もう少ししたらきっと聞こえる、それは泣きたくなるくらい幸せな言葉。
皆がそろう食卓の「いただきます」の幸せな響き。
20061109UP
書き始めはタイムリーでした。タイムリーでは季節外れになるのは目に見えてましたね(汗)
樹林さん、以前「完成したら進呈します」と言った書きかけてたのがこれです。
嘘つきになってしまい申し訳ありません。自分で使ってしまいました。
でもでもこれは樹林さんに捧げます。よろしければお受け取りください(クーリングオフききます)
こういう話を書くときにいつも一つだけジレンマがあります。
お妙さんのこと。
万事屋親子が大好きだけど、新八が万事屋で過ごしてるとお妙さんは志村家で一人なのかなとか思ってしまうとちょっと切ない。
ごめんなさい。
でも銀新が大好きなんです。
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