「お前なにやってんの?」
「うわっ、銀さん!?」
「何でお前が吃驚すんだよ、驚くのはこっちだろ」
「や、だって急に、開くから」
「こんな静かな中でハァハァ言ってりゃ嫌でも聞こえるわ」
「如何わしい、感じに、言うのやめて、下さいよ」
「……お前も絶妙な息継ぎすんな」
「だって、苦しく、て……」
「家から走ってきたのか?」
「はい」
「ったく、あほか……ホレ、中入れ」
「ありがとうございます」
銀時は新八の背中を押して中へと促した。
玄関の戸は閉めたけれど、新八が上がろうとはしないのでなんとなく立ち話になる。
「で、なんだってこんな事になってんの」
寒空の中、新八は上着も羽織らずいつもの着物と袴のままなのだ。
それでも少しも寒そうではなく、上気した頬は綺麗に朱を刷いている。
けれど、汗に濡れた身体はいずれ体温を奪われる。
温めてやりたくて銀時は新八の身体を引き寄せた。
「部屋の窓から空を見てたんです。今日って凄く星が綺麗だったから。そしたら鈴の音が聞こえた気がして……」
大人しく腕の中に納まった新八は走ってきた勢いのままほんの僅かに上ずった声で話をする。
「……幻聴じゃねーの?」
「それでもいいんです。サンタクロースって僕は見たことないですけど、でもいるのかも知れないなって思ったら、銀さんに凄く会いたくなって」
「脈絡無くネ?」
「サンタがいるなら今日は奇跡の夜かもしれないって思って、そう思ったらどうしても会いたくて……」
星明りの玄関口で黒い瞳がキラキラひかる。
「銀さんのこと、凄く抱き締めたくなったんです」
新八の腕が銀時の胴に回されてぎゅっと締まる。
「銀さんが倖せだったらいいなって、そればっかり考えてて」
「なんだよ、それ……」
「僕も、よくわかんないです」
少し困ったようにえへへと笑う新八を、銀時は抱き締める。
「アホかお前、ぜってーアホだろ」
ぎゅうぎゅうに抱き締める。
「ん……くるし……」
こんな寒い日に。
こんな薄着で息せき切って走ってきて。
ただ銀時の幸せを願って抱き締めたいなんて。
「ホントアホだよ、なにやってんだよ、こんな冷てー身体しやがって……」
冷え切った身体はなかなか温まらず、首元を擽る吐息だけが温かい。
「あんまりアホアホ言わないで下さいよ。自分でもわかってるんですから」
「分かってんなら自重しろってんだ、このウスラトンカチ」
「こんな聖なる夜なのになんでそんな暴言ばっか吐くかなぁ」
「うっせーよ」
会いたいとかけて来た、本当は愛しくて堪らないこの存在に銀時はあまり優しくする術を知らなかった。
「ねぇ銀さん」
新八を抱き締める為に屈み込んでいる銀時の肩に小さな顎が乗る。
「なんだよ」
新八の手の平が銀時の背中をゆっくりと摩る。
「倖せで、いてくださいね」
耳元で聞こえる、願うように優しい声音。
「ずっと、ずっと、倖せでいてくださいね」
ただ銀時の倖せを願う声。
その声こそが銀時を倖せにするのだと、新八は知っているのだろうか。
「言われなくたってな」
ようやく温まった首筋に顔を埋めて。
「手放す気なんざサラサラねーんだよ」
半ば押し売りと居直り強盗のような少年と少女。
手ぶらで歩いてきた両手を突然塞いだ大荷物を、鬱陶しいことこの上ないとずっと思っていたはずなのに。
もう、失くす事など考えられない。
「良かった……」
銀時の告白に新八は安堵する。
その吐息に煽られて、銀時は埋めた首筋に軽く歯を立てた。
倖せであれと願ってくれる、その存在こそが倖せである糧なのだと。
いつか伝えられる日がくればいいと願う。
離せない温もりを抱き締めて、銀時は扉の向こうにシャランという鈴の音を聞いた気がした。
20081219UP
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