腕の中で気配が動いて覚醒。
カーテン越しの眩しさに目が覚めた。
もぞもぞと鼻先を擽るのは黒髪。
俺と同じシャンプーの匂いに新八の甘さが混じる。
蘇る昨夜の記憶。
腕の中の温もりが夢じゃないように両手で確かめた。
丸い頭、なだらかな肩、薄い背中に細い腰。
手のひらで包むように撫で下ろす。
小さい尻に辿りついてなんとなく揉んでたら、黒い瞳がぱちりと開いた。
「はよ」
「お…………」
瞬間湯沸かし器。
みたいだった。
ボッって音がしねーのが不思議なくらい。
一瞬で顔を赤くした新八は俺の胸元に逆戻りした。
「はよう、ございます……」
くぐもった声がTシャツ一枚を隔てて肌を擽る。
「ケツ、痛くねぇ?」
耳を越えて首筋まで赤くして。
ぎゅぎゅーっとシャツを伸ばす勢いで新八が指を握りしめた。
何度も首を振る仕草にパサパサと布が鳴る。
「ならよかった」
抱き締めて、脚を絡めて全身で確かめる新八の存在。
俺……の。
「新八、顔見せて」
縮こまってる両脇に手を入れてずるずると引き上げる。
絡めた足は解いてやらないけど。
同じ高さに引き上げても旋毛しか見せてくれない小さな頭にバカみたいにキスを降らした。
「新八ィ、いい加減顔上げねぇとハゲんぞ」
小学生みたいな攻撃。
飽きもせず何度も旋毛を啄ばむ俺に新八がとうとう肩を震わせた。
「あはは」
笑って。
観念した新八は向かい合って枕に並んだ。
「子供みたいです」
「新八に関しちゃ大人げねぇよ?俺は」
昨日から、新八のイメージはずっとピンク。
今朝もつるんとした頬は綺麗に上気してる。
普通はよ、高校生男子つったらもっとこぅ……しょっペー感じのさ、青春の汗と涙!みてぇな塩味を連想すんだけどさ。
何でこいつはこんなふわふわしてんだかねぇ。
砂糖菓子と間違えそうなんですけど。
ひたりと触れると指の甲が熱い。
頬からずらして耳たぶ、首筋、鎖骨。
さらりとした肌を胸元まで滑らせた。
開きが緩い俺のパジャマは容易く侵入を許す。
ボタンを一つ外すだけでもともと開き過ぎの胸元は簡単に広がった。
平らな肌に微かな凹凸。
指の腹でだから感じる仄かな膨らみ。
形に添ってくるりと滑らせる。
まだ柔らかいそれは触ってるだけで気持ちいい。
すげぇ倖せなんだけど、あんまスムーズに運び過ぎてちょっとびびる。
「ちょっと新八君?新八君が止めてくんないと先生暴走しそうなんですけど」
なんも抵抗がねぇと返って怖い。
「あ……先生に触ってもらうの、気持ちいいからつい……ちょっとうとうとしてました」
なにそのめちゃめちゃ天然発言。
ちょ、勘弁してください。
乳首触られてうとうととか、ホント勘弁してください。
触ってる俺が言うのもあれかもしんねーけどホントにさー……。
なに、俺の前では心の鎧は全裸なの?
ノーガードな感じなの?
俺のパジャマを上だけ着て、ピンクの乳首は無防備で、むき出しの脚を絡め取ってる乱れまくったこの状況。
なのに、新八の纏う空気は怖いくらいに清廉で。
全ての邪念を振り払うが如く、ってな。
……俺、よく新八に触れたよな。
知らないうちに浄化、されてんのかもしんねぇな
触った背中にあるのはやっぱり浮き出た骨だけなんだけど。
もうなー、天に帰りますとか言い出さなきゃどっちでもいいけどな。
新八の上で脱力。
胸に耳が当たって、心臓の音がすげぇ落ち着く。
ぜってぇ身体からマイナスイオン的なもんが出てる気がすんですけどね。
「先生」
「ん?」
「苦しいです……」
「んー」
どきたくなかったから生返事で濁したら苦笑交じりのため息が頭にかかった。
新八の指が俺の髪をゆっくりと梳く。
感触の心地よさが二度寝を誘う。
「今日は」
「ん」
「天気がいいから、洗濯がしたいです」
お洗濯、ね。
「それから」
「それから?」
「お腹が空いたから、朝ごはん」
「朝飯……」
呟いたら身体が空腹を思い出した。
「何作ってくれんの?」
「昨日買ったホッケの切り身を焼いて、あとはご飯とお味噌汁くらいですけど」
「味噌汁……」
「はい、具はお葱しかないですけど……もしかしてお味噌汁嫌いですか?」
「や、大好き」
「よかった」
頭を起こすとすぐそこに嬉しそうな新八の顔があった。
眼鏡のない新八に、おはようを言える日が来るなんてな。
伸び上がって鼻先と唇が触れる、軽い口付け。
おはようのチューとかなー、なんかもう俺すげぇ恥ずかしい人になってっけど制御不能。
なんかもうめちゃめちゃ倖せ。
「早く新八の味噌汁、飲みてぇな」
「すぐ作りますね」
「うん」
「あの……どいてもらえないと動けないです」
「うん」
「先生」
「うん?」
「僕もご飯、食べたいです……」
「う〜ん」
陥落。
俺はごろりと転がり落ちた。
「作ってください……」
「はい」
俺から解放された新八はもそもそと布団から這い出ると一旦正座した。
俺の外した胸元のボタンを留める仕草。
外してんじゃなくて留めてんのにエロいって、なんなんかだな。
「着替えがないんで、このまま作ってもいいですか?」
「そりゃ」
願ったり叶ったりですけど。
「じゃあ、少し待ってて下さいね」
立ち上がった新八の、すらりと伸びた素足。
俺のパジャマの裾を太もも辺りでひらひらさせながら流しに向かう。
朝から眼福のチラリズム。
やっぱちょっと、歩き方がぎこちねぇかな。
「新八」
「はい?」
「平気か?」
何がとは聞かねぇけど。
「だ、大丈夫です……」
一瞬の間を置いて赤くなった新八はふわふわの余韻を残して洗面所に姿を消した。
なんだ、あれ。
なんだ、あれ。
なんだ、あれ。
めちゃめちゃぎゅーってしたくなんじゃんよー。
洗濯とか朝飯とか味噌汁とか。
ベタだけど俺にとっちゃ倖せの象徴みたいな憧れがあって。
それが新八の口から出るって現実がなんてぇか、もう……さ。
新八の事、家に帰してやる自信がなくなりそうだった。
朝の光とか、太陽の陽射しとか、一日の始まる健やかさとか。
新八がそこにいるだけで、当たり前の日常に鮮やかな色が付く。
部屋ん中を満たす光。
洗濯機の回る音。
包丁がまな板を叩く音。
漂い始める朝食の匂い。
そういう倖せに包まれた中でもう一度新八に起こされてぇなとか。
考え始めたら倖せの二度寝に向かって思考はまどろむ。
落ち始める瞼。
瞬きがだんだんと緩慢になる。
気持ちよくて、もう目を開けてらんなくて。
瞼の裏に最後に残ったのは流しの前の新八の後姿。
朝の光を纏ったそれは俺の、倖せのカタチ。
目覚めた時にどうか消えてませんように。
強く願って、俺はゆっくり意識を手放した。
終
20081102UP
20090130改稿
皆様に気に入ってもらえるかどうか甚だ不安ではありますが、これが私の中に在るうちの二人の姿です。
私は最初この二人ではやってる話を書く気は全くなかったんですけど(自分の中に存在してなかったんです)新八が誕生日に坂田先生に自分をあげる気満々でいたので大変驚いたものです。
新ちゃん、あんたそんなこと考えてたのね、となりました。
新ちゃんがその気なら、私も腹を据えて書かねばなりますまい、先生も心して受け取らねばなりますまい、ということで大変慎重になりました(笑)。
だって新八君のお初だもん!
書きながら、先生がめちゃめちゃ羨ましかったです(笑)。
でも、待っててよかったね、ともちゃんと思っておりました。
先生はホントに新八の事大事にしてますよ、自分で言うのもなんですが(笑)。
肩甲骨の件とか知識としては知っていましたが、丁度そのとき読んでいたBLマンガにかなり触発されて使ってしまいました。
だって羽とかあるよねーって思いますもん(笑)。
でも先生は新八には鴉の濡れ羽のような艶やかな黒い羽も実は似合うと密かに思っていたりします。
てかそっちのが似合うんじゃね?くらいの勢いで(笑)。
天使でも、悪魔でも、多分先生には問題ないのでお話になりませんけども(笑)。
人外だとか、そういうことは障害にはなりえないですね、この人の前では。
だって新八だろ?という理屈がまかり通るので(笑)。
ご尤も、とひれ伏すしかありません。
そんなこんなの坂田先生本懐篇(!)
気に入っていただけましたら幸いです。
やることやっちゃっても、きっと何も変わらないだろうなというのがうちの二人ですけども。
ただ先生は新八に触ることへのタブーが解禁されたのでしつこさは増すんじゃないかと思います(笑)。
読んでいただきましてどうもありがとうございましたv
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