腕時計をちらりと見れば授業終了まであと10分を切っている。
そろそろこっから退散しねーとやばいかもな。
「もうじきチャイム鳴るぞ」
新八を引き上げて立ち上がる。
「一緒に教室行ってやろっか?」
顎の辺りにある小さな顔を覗き込む。
「……多分大丈夫です。きっと先生と一緒の方が注目されちゃうと思うから」
「そっか?」
俺としては寧ろなんとなくでも牽制しときたい気分なんだけど。
新八のクラスにいく機会なんてねーもんな。
「新八のクラス、覗いてみたいんだけど」
「あんまり先生見られたくないからいいです」
ちょ!
気持ちがぐぐっとなって、俺は上がりそうな手を白衣のポッケに突っ込んだ。
俺が我慢しようとするとすかさず新八がそれを無効化する(勿論無意識だ)。
俺の努力はぐるぐるぐるぐる、堂々巡りの空回り。
でもなんか、それも楽しいかもしんない、とか思ってるからもう末期。
新八の手が制服のポケットから飴を出して白衣の胸ポケットに二本挿してくれた。
「一日4本は絶対守ってくださいね?」
ね?っていわれた。ね?って。
すげーかわいい。
16歳の男子でも、新八だったらもう何でもあり。
「はい」
もうこれはそう言うしかないでしょう。
先生頑張っちゃうよ。
「んじゃとりあえず保健室行っとくか」
俺はその先の職員室に。
頷いた新八を確認して俺は階段を降りる。
ポケットに手は突っ込んだまま。
これ、結構いいかも。
基本手はポケット、にしよう。
「あ」
階段途中にさっき新八の手から転げ落ちた飴。
新八の手が拾い上げた。
「ちょっと勿体無いですけど、捨てときますね」
「えー」
「だって、先生、洗って舐めるとか言い出しそうなんですもん」
読まれてんじゃん。
「駄目なの?」
「駄目です」
いじまし気にじっと見てたら新八が二段上がって俺を見下ろした。
つられて顔を見上げたらキスを、された。
「捨てますからね」
「……はい、どうぞ」
横をすり抜けて降りていく新八を傍し見送る。
素直に、柔軟に、どこまでも受け止めてくれる柔らかさは、油断した途端にふっとはじき返される強さを持つ。
柔らかいのに硬い新八の程よい弾力は、どうしようもないくらいに俺をメロメロにする(もう死語でも何でもいいよ、関係ねぇよ)。
「新八」
授業中の静かな空間。
囁くような小さな声は新八の耳にちゃんと届いて振り返らせる。
「学校以外では、我慢しねぇから」
追いつくように階段を降りる。
五段降りて追いついて、見下ろした先で新八が笑った。
「……いいですよ」
学校、学校、ここは学校。
我慢できない俺が堪え性がないんじゃないかと思ってたけど、実は半分くらい新八君の所為なんじゃないんですか?と今はっきりと確信をする。
双方の、弛まぬ努力が必要なようです。
「新八、これから学校で可愛い事したらペナルティー制でいこう」
並んで歩いて階段を降りる。
「何ですかそれ。先生変な事ばっかいいますよね。……そういえば、さっきの丸くて柔らかいものの答えって、結局なんですか?」
一階の、人気のない下駄箱の前でされた質問に俺は手をポッケに突っ込んだままで答えた。
「先生が、一番食べたいと思ってるものです」
「やっぱり食べ物でいいんじゃないですか。お菓子ですか?」
「……味見をした限りではもうたまんねーです、ってくらい美味そうなモン」
「なんだろう……」
頑張って考えたってきっと新八にはわからない。
「甘いものは控えないと駄目ですよ?」
そんな甘い声で言われたって逆効果。
寧ろもっと欲しくなる。
保健室の扉の前で保健医不在の札を見る。
部屋に入る新八の後ろについて俺も入室。
「職員室、行かないんですか?」
不思議そうに振り返る。
「やっぱさ、新八を看病してたっていう既成事実を作っとこうと思って」
ちょっとベッド借りようと思ってお邪魔したら具合悪そうな生徒が居たのでついてました、ってのは割といい理由なんじゃないかしら?って提案したら、じゃあお願いしますって。
新八の手がベッドをぐるりと囲むレールカーテンを引いて視界を遮断する。
制服の上着を脱ぐと白いシャツ。
俺の座ったベッドの上に新八が上がる。
風邪気味と腹痛と、どっちにしましょうか、とかいいながら眼鏡を外して横になると前髪がさらっと流れて額が見えた。
「ボタン、外してもいい?」
「ボタン?」
「これ」
一番上まできちんと止められたシャツのボタン。
ポッケの枷を外した俺はボタン脇を指でつっと下に辿る。
「三つくらい外したい」
意味を理解した新八をニッとみて、了解も得てないのに首元から順番にボタンを外した。
開いた胸元から覗く浮いた鎖骨。
綺麗な線を指でなぞると黒髪がさらりと鳴った。
「顔が赤いから、風邪気味にしとけ」
そういったら新八の顔の赤味が増して、次の瞬間には布団で隠されてしまった。
じっと見てたらそろりと目元が布団から覗いて軽く俺をにらんだ。
「我慢は」
両脇に手をつく。
「明日からにするわ」
触れた唇を、新八は拒まなかった。
この場所で、まさにこのベッドの上で、俺たちは初めてのキスをした。
あれからもう何度もこの唇に触れているのに未だに飽きることはなく。
触れ足りないとすら思う。
拒まないのに逃げる、柔らかい舌を追いかけて。
やがて鳴り出したチャイムの音が消えるまで、俺は唇を離さなかった。







きわどいタイミングで戻ってきた保健医は、まるっと一限分不在だったらしく、俺は尤もらしい顔をして新八の不調を訴えておいた。
潤んだ瞳と赤い頬に、新八の額に手を当てた保健医は「風邪かもしれないわね」と体温計を出した。
「えっと、名前、なんだっけ」
わざとらしく、でも不自然じゃないように新八に問う。
「志村です」
「へぇ、俺のクラスにも志村っているよ?」
「姉です」
俺たちのくすぐったくなるようなやり取りを、保健医は何の疑いもなく信じてる。
「あら、そうなの?それは凄い偶然ね」
背を向けたままで用紙に記入をしながら声だけで反応を返すその様子に、俺たちは視線を合わせてそっと笑った。
「じゃあ俺、次授業入ってんで行きますわ」
「どうもご苦労様でした。じゃあ志村君はもう一時間休んでなさいね」
挨拶の瞬間だけ振り向いて会釈して、彼女はまた書類に戻った。
「お前何組?」
「1―Cです」
「じゃ、上行く前に寄って言っといてやるよ」
「ありがとうございます」
ここで初めて会ったみたいな会話をしながら俺は彼女の背中を横目で確かめる。
「ま、これも何かの縁だしな。志村、早く良くなれよ」
伸ばした指先で新八の唇をそっとなぞるとその指先を新八に捕まれて。
一瞬だけ絡むように繋がってするりと離れた。
悪戯が成功した子供みたいに笑う新八は珍しくも可愛くて。
また布団に半分隠れてしまった柔らかな頬に触れたかったけど、仕事を済ませた保健医が動く気配に手を止めた。
「志村君、体温計出して」
新八が取り出した体温計を彼女に渡す。
平熱だと彼女は言う。
当たり前だ。
でも顔はちょっと赤いのよね。
それも当たり前。
壊れてるのかしら、と首をかしげて体温計を振る彼女を横目に俺はその場を後にした。
廊下にはさっきまでとは打って変わって生徒や教師が行き来する。
知らない女性徒が軽く会釈をしてすれ違う。
明日から、新八ともこんな風に接しなきゃいけないんだよな、ってのが現実的に突きつけられて。
ちょっと無理なんじゃないの?なんて他人事みたいに今更思う。
我慢した後の喜びってのは結構感動モノだけど、でもそれって昼休みに暴走しかねない危険も孕んでいるわけで、出来るかどうか心配になってきた。
まぁ取りあえずは様子見で、明日一日頑張ってみましょうか。
週一でも、せめて月一でも、我慢しなくていい日を一日作ってくんねぇかな。
思いっきり新八に触ってもいい日を作ってもらおう。
今度新八に相談しよう、そうしよう。
そうしないと坂田先生が壊れちゃうよって言ったらきっと新八は甘やかしてくれるから。
いい年した大人がね、16歳にどんだけ甘えんだって感じなんだけども。
だってね、俺は甘党なのよ。
糖尿寸前、ドクターストップかかっちゃう勢いで甘いモンに目がねぇわけよ。
だったらもうこれは仕方ないんじゃねぇの?
新八は、どんだけ摂取しても血糖値は上がんねーから大丈夫。
ただ中毒性はあるけどな。





明日からすることは。
1・ すれ違っても知らない振り
2・ 手の届く範囲にきたら手はポケット
3・ 飴は一日4本まで
4・ ベロチュー禁止
頭の中でひとまず箇条書き。
あらあら大変、できるかしら、なんて事を考えながら職員室の戸を開けた。
それと同時に始業チャイムが鳴り出して。
ああこれはしんぱ遅刻って名前をつけよう、と思った俺でした(作文)。

3年Z組 坂田銀時


おわり
20070216UP
20070221改稿  (手を加えたら切りがないんですが、読み返してどうしても気になる部分だけ少し直させていただきました) 


終わりました。
また作文、とか変な終わり方にしてしまった(笑)
しかし皆様、いい加減消化不良を起こされたのではないかとかなり心配です(汗)。
やるの?やらないの?どっちなの?
いつまでイチャイチャしてんですか、お前らは!ってな話です(笑)
ともあれずっと打ちかけて抱えてた話だったのでようやくまとまって一安心です。
新EDで3Zが盛り上がる中、うちはこんなんですけど久々の3Zです。
お楽しみいただければ幸いです。


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