噂
『さっちゃんと銀さんは付き合っている』
そんな噂がネットで実しやかに囁かれていた。
「なんだそれ」
ジャンプから顔を上げた銀時が胡散臭そうな顔をする。
新八は茶菓子とお茶をテーブルにおいて向かいに腰を下ろした。
はいどうぞ、と銀時にお茶を差し出して。
「なんかそれを書き込んで回さないと始末されるとかって話で、あっという間に広まったらしいです。今日大江戸マートにいったら長谷川さんが教えてくれました」
HN「銀色の侍」から端を発するこの噂、新八にも関わりがないわけではないのだがそれは新八の所為ではないし彼の与り知るところではなかった。
「そんで俺達は付き合ってることになってるって?」
「みたいです」
「さっちゃんてあれだろ、あのM女」
「そうですね」
「あいつのやりそうなこった」
「この噂はさっちゃんさんが自分で流したってことですか?」
「それ以外にねぇだろが」
さっちゃんと銀時が付き合っている事を書き込まなければさっちゃんに始末される。
それは普段の銀時へのあからさまな態度とあわせて考えれば自ずと導き出される答えだった。
「だとしても。皆は知らないわけじゃないですか。否定しなくてもいいんですか?」
「あぁ?面倒臭ぇよ。それになんで俺があの女のために労力削らなきゃなんねぇんだよ」
心底面倒臭そうに大きなため息をついて銀時は茶菓子の煎餅に手を伸ばす。
甘党用にざら目砂糖のついた甘辛煎餅だ。
「人の噂も七十五日ってな。言いたい奴には言わせとけ」
お茶を一口飲んで立ち上がる。
どこへ行くのかとつい目で追ってしまった新八だったが銀時は単に向かい側に移動しただけだった。つまり新八の隣な訳だが。
「本当に大事なことは」
隣に座り、新八の手にあった湯飲みを取り上げてテーブルの上によけて。
自分を見上げてくる新八に銀時は唇を寄せていく。
「知ってて欲しい奴が知ってりゃ十分だ」
視線を外さぬままで一度軽く口付けて離れる。
新八の手を取ると手首を辿りゆったりと開かれた袖口から腕を辿って上がってゆく。
入り込んだ銀時の手が、何かを待つように肘の辺りで留まり肌を優しく撫でる。
覆うもののない肌を直接辿る指の動きはまだ知らぬ愛撫のようで。
新八は緊張をコクリと飲み下してゆっくりと唇を開いた。
「銀さんは、僕のもの……です」
「ちゃんとわかってんじゃねーか」
にやりと上がった口端は満足気で。
銀時はそれだけでもう十分だというように新八の唇をゆっくりと塞いだ。
数日後「銀さんには眼鏡で黒髪、原石美人の嫁がいる」という噂がネット上で流れたとか流れなかったとか。
それもまた新八のあずかり知らぬ事ではあったのだが。
終