坂田君と志村先生 1
「志村先生ってふんわりしてていつもお菓子の甘い匂いするよね~」
クラスの女子が言った言葉をたまたま聞いた。
それだけの事だったのに。
甘いものに目がない銀時はそれ以来どうしても気になって仕方がなかった。
志村新八という教師がいることは知っている。
けれど担当は家庭科で、銀時達男子生徒には全く縁のない教師だった。
だから存在は風の噂に聞いていても実際その姿を見たことはない。
「なぁ」
「え?なっ、何?」
机に足を乗せ腹の上で手を組んだだらしのない姿勢のまま、銀時は付近で談笑している女生徒に声を掛ける。
普段他人を寄せ付けない銀時が掛けた声に一瞬驚きを隠さなかったものの、次の瞬間女生徒は嬉しそうに尋ね返した。
本人はあずかり知らぬ事ではあるが銀時はクラスの女子に人気がある。
「志村ってどこに行ったら会えんの?」
「志村……って、志村先生の事?」
「そ」
「どこって……職員室に行けばいるんじゃないかな」
「職員室なんかかったるくて行けっかっつの。そーじゃなくてよ」
職員室に教師がいる。
そんな当たり前の場所に行く気はさらさらなかった。
「あの……」
三人いた女子のうち、一人が控えめな声を出した。
「何?」
「あの、私、料理部に入ってて……志村先生が顧問なんだけど」
「マジで?いつあんの」
「今日の放課後もあるよ」
「どこでやってんの?」
「調理室」
「放課後に調理室行ったら志村、いんの?」
「う、うん」
「へー、サンキュ」
欲しい情報を得た銀時は机から足を下ろした。
「坂田君、どこ行くの?授業始まるよ?」
席を立ち、教室を出ようとする銀時に件の女性徒が声をかける。
「だりーから昼寝してくる」
情報提供の礼に少しばかりの愛想を残すと後ろ手を軽くひらりとさせて、銀時は教室を後にした。
締めたドアの向こうから黄色い声が聞こえたけれど、そんなことはどうでもよかった。
『甘い匂いのする志村先生』
噂の教師をついに見ることが出来る。
それは銀時にとって退屈な学校生活の中の、ほんの些細なくだらないイベントに過ぎないけれど。
何故か心が高揚するのを止められなかった。
ここのところ甘いものを食べていなかった所為かもしれない。
ただ、放課後が少し楽しみだなと思いながら屋上への階段を上っていった。
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